2010 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫忌避剤・防虫剤の吸入暴露による化学物質過敏症などの炎症性疾患発症と病態解析
Project/Area Number |
22510072
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
横田 恵理子 慶應義塾大学, 薬学部, 講師 (10222457)
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Keywords | 炎症 / 化学物質過敏症 / 昆虫忌避剤 / シグナル伝達 / マスト細胞 |
Research Abstract |
昆虫忌避剤DEET(N,N-diethyl-m-toluamide)や、ピレスロイド系の防虫・殺虫剤は家庭・地域において日常的に使用されている。これら化学物質の炎症性疾患や化学物質過敏症発症への関与が懸念されるが、その詳細な作用機序については不明である。アレルギー性炎症疾患であり、化学物質過敏症の症状の一つでもある「喘息」に着目し、その病態形成において重要な役割を果たすと考えられているマスト細胞の抗原依存性活性化に関して検討した。ラット好塩基球性白血病細胞株RBL-2H3を、マスト細胞のモデルとして用いた。細胞をIgE抗体(抗DNP-IgE)で感作した後、DEET(100μM~2mM)存在下で30分間培養した。抗原(DNP-HSA)刺激後30分間の脱顆粒反応に対し、DEETの濃度に依存した弱い抑制作用が観察された。このとき、脱顆粒反応に関わる細胞内シグナルとして、SykおよびERKのリン酸化(活性化)に着目して検討したところ、Sykのリン酸化は抑制されたが、ERKのリン酸化はほとんど抑制されなかった。通常、抗原刺激後ERKのリン酸化は減弱するが、DEET存在下ではリン酸化が持続していた。DEET単独処理では、脱顆粒や、SykやERKのリン酸化のいずれも観察されなかった。Sykのリン酸化は、抗原によるFc受容体凝集後の細胞内シグナル伝達系の初期段階で生じ、ERK活性化につながる。DEETによるERKの持続的活性化の機序については、直接的活性化というよりも、脱リン酸化の抑制など間接的メカニズムが考えられる。神経細胞や白血球において、ERKの持続的活性化が分化を誘導することから、DEETによるERK活性の持続化がマスト細胞の生存、分化などに影響する可能性が考えられる。
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