2011 Fiscal Year Annual Research Report
絶対量計測に基づく比較プロテオミクスによる生体内代謝経路の制御機構の解明
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22510207
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
紀藤 圭治 明治大学, 農学部, 講師 (40345632)
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Keywords | 絶対量計測 / 比較プロテオミクス / PCS-MS法 / 代謝経路 |
Research Abstract |
酵母計8種について、グルコース培地とグリセロール培地での増殖速度を計測した。S.cerevisiaeと同属の3種の酵母はグリセロール培地で増殖速度が2~3倍低下したのに対し、属の異なる4種の酵母では両培地での増殖速度の差異は1~1.5倍程度であった。そのうちS.cerevisiaeならびに同属の酵母1種(S.mikatae)と、属の異なる酵母1種(K.waltii)について、両培地でのタンパク質発現量の違いを質量分析により計測した。 これら3種の酵母について、糖代謝、発酵、TCA回路、電子伝達系、酸化的リン酸化などの代謝に関わる酵素群計147種類のうち、92~117個(62~80%)のタンパク質について質量分析による検出に成功し、種間ならびに異なる培養条件下での発現量の違いを非標識法により比較解析した。グリセロール培地ではその取り込みに関わる酵素の発現量が多く、一方でグルコーストランスポーターの発現量が低いなど、各炭素源の利用に直接関わるタンパク質発現量の違いが確認された。S.cerevisiaeとS.mikataeでは両培地間で解糖系酵素の発現量に差はみられなかったが、K.waltiiではグリセロール培地で解糖系酵素の発現量が顕著に低下していた。また、グリセロール培地では、S.cerevisiaeとS.mikataeではTCA回路に関わる酵素がより多く発現していたのに対し、K.waltiiではむしろ減少傾向にあった。両培地での増殖速度の差異が小さい酵母(K.waltii)においては、特定の代謝酵素群の発現量を増加させるのではなく、むしろ必要最低限にタンパク質の発現量を抑えることで環境の違いにうまく適応していることが示唆された。 一方で、タンパク質の代謝回転速度の計測時に用いる過剰量のアミノ酸について、酵母の生育ならびにタンパク質発現量への影響が少ない濃度範囲を定めることに成功した。 以上より、種間で代謝酵素発現量の違いを系統的に比較解析することは、環境変化に適した代謝制御機構を明らかにする有効な方策であることを示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2種類の炭素源で培養した3種の酵母について、代謝酵素群の発現量を調べたことで、すでに種間での発現量比較解析から環境応答に適した代謝制御機構の一部が明らかになってきたことは、当初の計画より進展している研究成果である。一方で、より正確な定量計測に用いる標準のデザインと作製が達成できていない点は、やや遅れている。双方を合わせておおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は解析する酵母の種を拡大するとともに、他の炭素源(エタノールまたは酢酸など)で培養した際の発現量比較解析も実施する。また、炭素源を置換した直後の発現量変化を時系列的に追跡し、環境応答の動態の違いについても解析する。同時に計測条件を確立しつつあるタンパク質代謝回転速度の差異も、複数の酵母間で計測するとともに、これらのデータを統合し、各々の種における特徴的な代謝経路の特定と酵母が有する環境変化への最適な応答機構の解明を目指す。 また、より正確な定量計測のための標準について、その系統的なデザイン手法を開発するとともに、高感度・高精度な発現量の比較解析を行う。
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