Research Abstract |
膜貫通タンパクの生体内における機能解明にはそれがもつゆらぎの情報が不可欠である。膜貫通に重要な構造のダイナミクスを調べるために,質量分析法を用いた実験的な手法と数理分子モデルによるシミュレーションの両面から解析した。 リン脂質としてホスファチジルコリンを用いてリポソムを調製し,それに対しモル比で1/1500のメリチンを挿入し,経時的にアセチル化修飾した。このアセチル化速度を質量分析により観測し,温度との関係をアレニウスプロットした。その結果,リン脂質のアシル鎖としてミリストイル基(DMPC:C14:0)を用いたリポソームでのメリチンのアセチル化は,0~25℃の間では,アレニウス式に従い温度上昇に伴って反応速度が高くなることがわかった。しかしながら,25℃よりも高くなると,温度が上昇しても反応速度は高くならない非アレニウス挙動がおこることがわかった。一方,リン脂質のアシル鎖としてパルミトオレオイル基(DOPC:C16:1)を用いたリポソームでは27℃を越える温度で非アレニウス挙動をとることがわかった。このことから,リン脂質膜内でめメリチンのアセチル化は一定温度以上において,非アレニウス挙動をおこすことが明らかになった。また,このことから,リン脂質を構成するアシル鎖の長さが非アレニウス挙動を迎える温度に影響を与えていることが示唆された。 メリチンは,1)リン脂質膜内で「浮き」のようにゆらぐこと,2)このゆらぎは温度変化によりその振る舞いを変化させることの分子論的イメージの構築のために,メリチンのリポソーム膜内でのゆらぎを粗視化動力学シミュレーションした。脂質膜に貫通したメリチンは14個の,脂質は3個の粒子(それぞれの粒子の半径は0.25と0.30とした)の連結バネとして表現した。メリチンおよび脂質を形成するそれぞれの粒子を結ぶ結合や水素結合,メリチンとリン脂質,リン脂質同士の間で働く相互作用にはレナードジョンズポテンシャルを与えた。また,このモデルへの水の影響はノイズと粘性抵抗で表したブラウン運動動力学法で表現した。その結果,低温領域ではアレニウス挙動,高温領域では非アレニウス挙動をシミュレーションで再現することができた。このとき非アレニウス挙動を示す温度領域では,メリチンの上にリン脂質が覆いかぶさり,メリチンの「浮き」のようなゆらぎをリン脂質が妨げる様子が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
リン脂質膜内でのメリチンのアセチル化は,低温領域ではアレニウス挙動を示すが,高温になると非アレニウス挙動を示すことが明らかになった。この非アレニウス挙動は,粗視化動力学シミュレーションの結果と併せて考えると,温度上昇に伴いリン脂質の動きが活発になり,リン脂質がメリチンの「浮き」のような動きを妨げることに起因すると推測した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で明らかになった現象は,メリチン同士がリン脂質膜上でクラスタを形成し,このメリチンクラスタの上にリン脂質が覆いかぶさり,メリチンの「浮き」のような動きを妨げているからと考えることができる。これらのことから,メリチンのリン脂質膜内ダイナミクスは,メリチン-リン脂質間の相互作用やメリチン同士の相互作用を考え合わせることで読み解くことができることが示唆され,これについては今後の課題である。
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