2011 Fiscal Year Annual Research Report
帝国とメッカ巡礼:ロシアのムスリム地域の視点から(1865-1914)
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22510254
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
長縄 宣博 北海道大学, スラブ研究センター, 准教授 (30451389)
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Keywords | ロシア / イスラーム / 帝国 / モビリティ / 巡礼 / 世界史 / 東洋史 / 比較研究 |
Research Abstract |
本研究は、グローバル、国家、ローカルの各層の相関の中で、帝政期のロシア・ムスリムのメッカ巡礼の動態を位置付けることを目指しているが、本年度は、ロシア帝国の内務省が人間の移動をめぐる国際規範と国内のムスリム行政の要請にどのように対処しようとしたのかを解明する点で成果が上がった。それは12月に、サンクトペテルブルグのロシア国立歴史文書館(RGIA)での資料収集が実現したからである。そこでは、内務省の中にあり、帝国の非ロシア正教徒の行政を統轄した外国信仰宗務局(f.821)、20世紀初頭に黒海の港から紅海まで巡礼者を運んだ義勇艦隊(f.98)、巡礼者が伝達しているとみなされたコレラの防疫に取り組んでいた医療監視主任局(f.1298)の文書を閲覧した。 本年度は、黒海の主要な港であるオデッサの文書館での調査を予定していたが、他の共同研究との兼ね合いで、8月に大英図書館のIndiaOfficeRecordsで資料調査を行う機会を得た。その際、l920年代にソ連がアラビア半島に関与していく戦略、とりわけ、中央アジアで経験を積んだムスリム官僚の外交官としての採用や汽船ルートの開発に、帝政末期との連続性を多く見つけることができた。このテーマは、今後も深めていくことになる。 本年度、国際的な研究ネットワークを作る上で重要だったのは、4月にスタンフォード大学でロシアとその南部国境地帯のイスラーム研究で指導的な立場にあるRobertCrewsが南アジア研究者と共同で組織したワークショップに招待されたこと、そしてフランスの著名な研究者2名を編者に迎えた論文集に、拙稿が採用され、出版されたことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
AlexandrePapas他編著の論文集に招待されて、そこで本研究の成果を発表できたことは、本研究が国際的に十分通用していることの証左である。オデッサの文書館で調査ができなかったことは、ローカルなレベルでの国家機関と巡礼者との相関を分析する上で支障になりうるが、ペテルブルグでの調査はそれをある程度補う成果が上がった。また、大英図書館での調査は、本研究を発展させる方向性を模索する上で、非常に有益だった。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は本研究の最終年度であるので、総括として、再び巡礼者の目線に立ち返って、国家の層とグローバルな層がどのようにメッカ巡礼の動態に作用していたのかを分析することになる。そして、英語での成果発表を引き続き行いたい。本研究は、帝政期のメッカ巡礼に焦点を絞ってきたが、申請時の研究目的で言及したように、巡礼は過去から現在まで持続的に繰り返される儀礼でもある。したがって、他の相互補完的な共同研究との兼ね合いで、帝政期の研究で得られた知見を活かしながら、ソ連時代と現在のロシア連邦のメッカ巡礼にまで研究の射程を広げることも考えている。
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