2010 Fiscal Year Annual Research Report
南洋大学の25年―シンガポールの国民国家建設と国民統合に果たした役割と意義
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22510273
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
田村 慶子 北九州市立大学, 大学院・社会システム研究科, 教授 (90197575)
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Keywords | 南洋大学 / シンガポール / マラヤ / 華語教育 / 国民統合 / 英語教育 |
Research Abstract |
本研究は、シンガポールで1956年に開学して1980年に消滅した、南洋大学という私立の華語大学(華語を主な教育言語とする大学)の歴史的役割と意義を、独立へ向かうイギリス自治領シンガポールおよび独立シンガポール国家の生き残り政策と国民統合政策、隣国マラヤ連邦(後にはマレーシア連邦)との関係、イギリスの東南アジア政策、さらにはアジアの冷戦、ポスト冷戦という国際環境と国際変動のなかで、明らかにしようとするものである。 本年度は、シンガポールとマレーシアでの資料収集(シンガポール国立大学中央図書館、同中文図書室、華裔館図書室、マラヤ大学図書館、華社研究中心資料室)と研究者との意見交換、台湾東海大学での研究者との意見交換をおこなった。また、台湾東海大学ではテーマに関する特別セミナーも行い、参加者との意見交換も活発に行った。 資料収集と研究者との意見交換で得られた知見は:(1)南洋大学創設者・関係者と政府与党との最大の対立点は、シンガポールの国民統合のあり方であったこと。南洋大学創設者・関係者・学生は、それぞれのエスニック・グループがそれぞれのアイデンティティを保持しつつ、国家の発展に寄与するという「メルティング・ポット」的な国民統合を理想としていた。一方、政府与党は、地域言語であるマレー語を国語とし、英語を共通語とする新しいシンガポール人アイデンティティを創り上げようとした。(2)マレーシア連邦からの分離・独立後のシンガポールでは、この対立に加え、南洋大学は、華人ショービニストの大学、「共産主義者の牙城」、国家建設に非協力的な大学と批判され続け、75年には英語で授業を行う大学に変質させられたこと。(3)ただ、南洋大学が「共産主義の牙城」であったかどうかは、議論の余地がかなりあること、などである。
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