2011 Fiscal Year Annual Research Report
南洋大学の26年-シンガポールの国民国家建設と国民統合に果たした役割と意義
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22510273
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
田村 慶子 北九州市立大学, 大学院・社会システム研究科, 教授 (90197575)
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Keywords | 華僑 / 華人 / シンガポール / 南洋大学 / 国民統合 / 国家建設 |
Research Abstract |
本研究は、シンガポールで1956年に開学して1980年に消滅した、南洋大学という私立華語大学(華語を主教育言語とする大学)の歴史的役割と意義を、独立に向かうイギリス自治領シンガポールおよび独立シンガポール国家の生き残り政策と国民統合政策、隣国マラヤ連邦(後にはマレーシア連邦)との関係、イギリスの東南アジア政策、さらにはアジアの冷戦、ポスト冷戦という国際環境と国際変動のなかで、明らかにしようとするものである。 南洋大学についての研究はシンガポールでは長い間「タブー」であり、まとまった先行研究はほとんどない。この研究は南洋大学の歴史とその役割についての初めての本格的な研究といえるだろう。 研究の成果として言えるのは、南大の存在は教育問題ではなく政治問題であったことである。イギリス植民地政府によって長い間無視もしくは敵視されてきた華校には反植民地・独立を求める左派の学生が多く、そのような学生の進学先となる南大は、反政府活動の拠点となる可能性が大きかった。さらに中国の影響によって共産主義思想が学内に浸透し、南大は共産主義の温床になるとも考えられた。イギリスは南大を大学として承認せず、シンガポール政府も68年まで学位を承認しなかった。隣国マレーシア連邦政府もまた、南洋大学の学生の半数がマレーシア華人であるにもかかわらず、学位を承認しなかった。学位が未承認で政府からの財政支援もほとんど得られない南大学生は大きな不満を抱えて政府と対立し、追い詰められていった。65年にシンガポールが独立すると、新政府は英語の普及を進めるために、南大を英語大学に強引に改編した。この改編は教員と学生のモラルを低下させ、華語大学としての特色を失った南大を魅力のない大学にしてしまった。南大を「二流の大学」にし、そのレッテルを貼ることで消滅に追い込んだのは、シンガポール政府であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度後半は、所属大学の海外研修制度を利用してシンガポール国立大学に客員研究員として滞在し、十分に時間をかけて資料収集や関係者へのインタビュー、研究者との意見交換を行うことが出来た。また、いくかの研究雑誌にその成果の一部を発表することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度4月~5月も引き続いてシンガポールに滞在予定であるので、資料収集およびそれら資料の整理と行う。さらに中間的な成果発表のために、シンガポール国立大学歴史学科研究会、台湾東海大学歴史学部研究会、華社研究中心資料室研究会での報告などを通して研究仲間からのリスポンスを受ける努力をする。年度後半は、国内外の学会において研究成果を発表し、また年度末からは成果を著書としてまとめ、出版の準備をする予定である。
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