2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22510291
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
荒木 映子 大阪市立大学, 大学院・文学研究科, 名誉教授 (50151155)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 章夫 大阪市立大学, 大学院・文学研究科, 非常勤講師 (10527724)
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Keywords | 英文学 / 文化史 / 第一次世界大戦 / ジェンダー / 記憶 / 記念碑 / 男性性と女性性 / シェル・ショック |
Research Abstract |
予定通り、ヨーロッパでの戦場ツアー、モニュメント調査、資料閲覧・収集を行った。 研究代表者は、帝国戦争博物館や大英図書館やイープルの文書館で、主として大戦期の女性の仕事と巡礼について手記や新聞記事等を閲覧した。また、リールからイープルまで戦争記念碑を見学した。ジェンダー規範を逸脱する形での女性の動員がなされたにもかかわらず、戦争文学のキャノンからそのような女性の体験記は長く無視され、博物館や記念碑等の記憶装置からも排除されてきた。女性による戦争文学を取り上げて、ジェンダーを見直し、新たに表現する過程を分析したことは、文学研究とジェンダー学両方において意義が大きい。集合的記憶を作り上げるためのモニュメントにおいては、作者の意図がそのまま反映されるというよりは、地域共同体の意向によって左右されることが多いので、ジェンダーに関しても文学作品のように規範から大きく外れることはない。しかし、中には、ジェンダーを超越し、作者の創造性が発揮されるモニュメントがあることを知ったことは重要な発見であった。 研究分担者は、主に帝国戦争博物館にてシェル・ショック、良心的兵役拒否者、さらにはイギリスのプロパガンダに関する資料を収集した。当時の民間人はシェル・ショックを「男らしさ」の喪失の表象と看做すことが多いのだが、兵士たちは患者たちに対し深い共感を持っていた。このような銃後と前線の間に生じた「男らしさ」の定義のずれを分析する論文を執筆中である。また大戦中のプロパガンダは、当初はベルギー民間人に代表される為す術なく犠牲になった無力な者を救うという大義を、女性を守る男性というジェンダー規範に沿って正当化していたのだが、やがて能動的犠牲者を賛美する傾向が高まり、その中で兵役拒否者は自分たちの払った自己犠牲を強調し「男らしさ」を誇示しようとした。その一方で自己犠牲を払わなかった兵役拒否者が大戦の記憶から抹消される過程を分析し、2本の論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細部の変更はあるものの、ジェンダー規範とその無効化を文学作品だけでなく、種々の表象において検証するという大筋をおさえて進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は、女性の書いた大戦文学、戦争記念碑、博物館、戦場ツアーに限定して、それらの表象にどめように大戦の記憶が刻まれているかを、ジェンダーの視点から分析し、まとめていく。ジェンダー以外の視点も必要に応じて取り入れる。研究分担者は、戦前の教育、及び、兵死の負った精神的、肉体的障害に関する言説を調査するこどにより、「男らしさ」の規範の形成過程を分析し、大戦を経てそれがどのように変遷、分化したかを考察する。
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Research Products
(4 results)