2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520007
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
渡辺 邦夫 茨城大学, 人文学部, 教授 (30191753)
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Keywords | 幸福 / 知識 / 理解 / 『テアイテトス』 / 『ニコマコス倫理学』 / 『メノン』 / 同一指定能力 / 有益性 |
Research Abstract |
研究実施計画1(『メノン』『テアイテトス』における有益性概念の研究)に関して言えば、2月に光文社古典新訳文庫『メノン』を上梓し、その例外的に長大な「解説」において、ソクラテス・プラトン的な有益性概念(ほぼ善の概念に重なる)の特徴付けを行い、『メノン』におけるソクラテス的対話が対話者メノンを試みつつ読者に参加を促すものであったとの議論仮説の提示に至った。知識は理解として押さえられ、そのゆえに主体性と倫理性を知の担い手に要求するものであったことを示した。また『テアイテトス』の「神の似像」の議論の解釈論文はやや遅れたが現在執筆中である。その内容は『メノン』における知の実践性と倫理性の性格の再確認と発展を『テアイテトス』が行ったというものである。 実施計画2(アリストテレスのプラトン知識論解読過程を研究書中で詳述すること)に関しては、『アリストテレス哲学における人間理解の研究』序論及び各章の論述(とくに第一章の徳論と第七章の実体論及び第八章の理性論は大幅に論述を増やした)において予想以上の大きな成果となり、同一指定能力の発展というアリストテレスによる人間の見方を、プラトン『テアイテトス』及び『ソフィスト』からの発展として体系的に記述できた。このような両哲学者の緊密な関連を捉えた研究は海外でも珍しい。 実施計画3(アリストテレス『ニコマコス倫理学』第10巻7・8章の逐語的解釈完成)は現時点で中途段階であり、平成24年度に解釈論文化する。 このほかソクラテス裁判に関するソクラテスの哲学的な立場と行動の一貫性について英文論文を発表できた。これは実施計画1の『メノン』解釈に『ソクラテスの弁明』の側から照明を与えるとともに、本研究課題の主題である知の実践性と倫理性はソクラテス的幸福観にもともとの基礎を持っていたことを示す研究である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プラトン『テアイテトス』の「神の似像」の議論の解釈論文は年度をまたいだ執筆になり次年度発表となり『ニコマコス倫理学』解釈専攻論文も完成にやや時間がかかっている。こうした遅れはあるが、『メノン』における知識の議論の始まりを『メノン』「解説」で非常に分かりやすく確定した形で書くことができ、また同時に『アリストテレス哲学における人間理解の研究』序論および各章において本研究課題の知の実践性と倫理性に関する新考察を多く書き加えたため、課題の遂行のスケール自体が大きくなった。したがっておおむね順調と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
『テアイテトス』の「神の似像」解釈と同対話篇中のその他の論との関連に関する解釈は平成24年度早い時期に論文として発表し、『ニコマコス倫理学』第8ー10巻解釈も平成24年度中に完成させる。これらの内容には平成23年度に新たに書いた著訳書の新発見も盛り込んでゆく。同時にアリストテレスの心の哲学の研究も進める。解釈の「戦線」がやや拡がっているのが問題点であるが、拡がりすぎる場合には『三コマコス倫理学』解釈完成を心の哲学関係の研究よりも優先させる。こうした平成24年度の仕事の上で、完成年度の平成25年度における、「神の似像」の議論のアリストテレス倫理学への影響に関する研究を行い、論文として発表する予定である。
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Research Products
(3 results)