2012 Fiscal Year Annual Research Report
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22520007
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
渡辺 邦夫 茨城大学, 人文学部, 教授 (30191753)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 幸福 / 知識 / 理解 / 『テアイテトス』 / 『ニコマコス倫理学』 / 同一指定能力 / 有益性 |
Research Abstract |
1.プラトン『テアイテトス』神の似像の議論の解釈を「『テアイテトス』の「脱線議論」(172C-177C)の意義と内容について」(茨城大学人文学部紀要『人文コミュニケーション学科論集』13号)として発表した。神の似像の議論を前後の文脈と結びつけ、「有益さ」に関するプロタゴラス流の相対主義的で実利主義的な発想に対する道徳主義的で学問知識の社会的意義を捉えるための議論として解釈した。本解釈は本研究課題全体の到達目標である、アリストテレス『ニコマコス倫理学』後半部の議論、とくに観想の実践に対する優位の議論への『テアイテトス』の影響関係の実証という目標に、直接関係するものである。 2.1の作業と並んで今年度目標にしたアリストテレス『ニコマコス倫理学』第8~10巻解釈の方は、現在(2013年4月)次の紀要(5月原稿提出、9月発行予定)に執筆中である。幸福論の最終結論としてアリストテレスが観想の「知恵の活動」を挙げたことが、道徳主義的な第10巻第5章までの人柄の徳と思慮深さなどに関する叙述と矛盾せず、人間の道徳的完成の理想の上に観想活動による「神に似た完成」が可能であるという論点であったことを、解釈として示す。この2と上記1の点を踏まえて、来年度最終年度に、アリストテレスの『テアイテトス』読解の証拠として1本の解釈論文を書く。 3.アリストテレスの心の哲学、とくに視覚論と触覚論に関する英語論文は、2012年6月にオックスフォード大学で権威のリチャード・ソラブジ教授に内容を説明し、同教授から懇切なコメントをいただくことができた。修正に時間がかかっているが、2013年度には完成させたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.4年間の計画の大きな目標は①『テアイテトス』の「神の似像」の議論の解釈を提出し、②『ニコマコス倫理学』第6~10巻の解釈をも提出して③両者を結びつけるところにあったが、ようやく①が解釈論文「『テアイテトス』の「脱線議論」(172C-177C)の意義と内容について」として実現した。また②にあたる紀要論文も現在執筆中(5月末原稿提出)であり、2013年9月に発行となる。最終年度となる2013年度に、これらを踏まえた上で、残る③を実行して研究課題の総括的研究とする予定である。 2.能力としての知識として知識を捉え、知の本来的道徳性を主張するための基礎理論となる同定(identification)論は、論文発表としてはやや遅れているが、その感覚論の部分は4年間の研究期間内に投稿、審査結果判明までもってゆきたいと考えている。なお、同定論の理性論と真理論としての展開、徳倫理学の現代的意義に関する論考等、当初計画では明文に謳わなかった周辺業績も、最終年度に公表できる見通しである。 1,2を総合的に評価するとおおむね順調な進展というところであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
1.『テアイテトス』「神の似像」の議論がアリストテレス『ニコマコス倫理学』後半部の構成と内容に対して与えた影響を1本の解釈論文として書く。この論文が4年間の研究課題の集大成という位置づけになる予定である。 2.同定論についても視覚・触覚に関して長年考えてきた解釈を英語論文として完成させ投稿する予定である。 3.おなじく同定論として、理性的同定の問題を真理論として展開するという課題を2013年秋の哲学会シンポジウム(10月27日)提題者として課せられた。同発表を、本研究課題との関連で知の実践性及び道徳性という古代的な特質の解明をかねておこなう。なお、発表後論文としても公表する。 4.現代徳倫理学の論文集に、現代徳倫理の観点から見たアリストテレスの思慮深さ・諸徳兼備の理想などに関する論文を発表する予定である(6月末日原稿締切)。アリストテレス研究を現代倫理学の論争場面の有意義な主張として展開する。ここでも、「知識」の古代的な把握を最大の論点のひとつとして論じ、その現代的意義を訴える。
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Research Products
(2 results)