2010 Fiscal Year Annual Research Report
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22520025
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
新島 龍美 九州大学, 伝アリストテレス作『大道徳学』の重層的研究 (50172606)
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Keywords | 古代ギリシア哲学 / アリストテレス / 『大道徳学』 / テクスト校訂 / 1185b15 / 翻訳 |
Research Abstract |
本研究は、アリストテレス作と伝えられてきた『大道徳学』について、(1)新たなテキストの批判的校訂、(2)得られたテキストに基づく当該作品の内在的分析、(3)析出された『大道徳学』の内容がアリストテレスの道徳哲学の全体像の解明に与える貢献の考察、更には、(4)アリストテレス倫理学が近世以降の主要な倫理学説・道徳理論に対する選択肢の一つであることを介して、『大道徳学』の研究が実践哲学・道徳哲学一般の研究にも関連する可能性を探る、といった重層的研究を行うことをその目的とする。 本年度は、1.諸写本のコピーを入手する作業を進め、入手できた一部写本の解読を行った。 2.Teubner版テキストを基にしつつ、1.の成果をも勘案しながら、新たなテキスト校訂の作業を進めた。この点に関してより具体的に言えば、『大道徳学』1185b13-32の箇所を検討し、中でも(『大道徳学』の真贋問題とも関連する)1185b15に見られる'εκ των ηθικων'の三語の理解を詳細に検討して、以下のような成果を得、論文として公刊した。即ち、先ず、(1)この三語を写本の読みのまま受け取る選択肢については、(1)「人柄に関わる事柄から」と特定の領域の現象を指示すると解する解釈、(2)アリストテレスの倫理学書に言及する書名と解する解釈のいずれも問題を招来することを示し、次に、(2)写本修正の試みの内、(3)'εκ των αισθησεων'と修正する試み、及び、(4)'εκ των αισθητων'と修正する試みはいずれも問題に逢着することを示した上で、(3)問題の三語を'εξω των ηθικων'(「人柄に関わる事柄の外で」)と修正する試みが最も問題が少ないことを示した。 3.上記1.及び2.の成果を踏まえつつ、『大道徳学』翻訳の為の作業を行った。
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