2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520027
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
柏葉 武秀 宮崎大学, 教育文化学部, 准教授 (90322776)
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Keywords | 倫理学 / 障害学 / 正義 / 平等 |
Research Abstract |
研究初年度の本年は、障害学の基礎文献を収集し読み進める作業と並行して、当初の研究計画では第二年の度課題であった正義論の研究をも開始することができた。具体的には、オリバーの障害学理論を押さえながら、その観点から正義論、わけても平等に配分されるべきものはなにかについての平等主義理論を検討している。 本年度獲得された知見は次のとおりである。障害学の立場からの正義論への批判は、配分的正義においてなにが配分されるべきかをもっぱらの争点とする正義論には社会環境を再編して障害者のディスアビリティ(身体的障害に起因する広範囲の不利益)を減少させようとする方向性が決定的に欠けているというものである。この批判に答えうる理論候補としてケイパビリティ(潜在能力)・アプローチが有力視されている。ヌスバウムに顕著であるが、このアプローチは財や福祉ではなく、基本的ケイパビリティこそを配分的正義の測定基準に採用している。その強みは、ひとつにはケイパビリティを発揮するための条件整備に社会環境変革を組み込むことができること、さらにはケイパビリティに障害者/健常者の区別にかかわらず人間の尊厳を確保する最低限の閾値を設定がゆえに、障害者を社会的貢献度の低い「弱者」としてカテゴライズする必要がないこと、この二点を確認することができた。さらにケイパビリティ・アプローチは、平等主義の理論と言うよりはむしろ十分論の理論であるという特徴を指摘し、十分論に固有の弱点を抱えている事実を指摘することもできた。以上の研究成果の一端を西日本哲学会において「正義論と障害者の生」との題目で研究発表している。
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Research Products
(1 results)