2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520027
|
Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
柏葉 武秀 宮崎大学, 教育文化学部, 准教授 (90322776)
|
Keywords | 倫理学 / 障害学 / 哲学 |
Research Abstract |
研究第二年度の本年は、本来の研究計画どおり、課題であった正義論の研究を進めることができた。昨年度西日本哲学会で「正義論と障害者の生」との題目で口頭発表を行ったときの読み上げ原稿を元にした論文「配分的正義と障害学-ケイパビリティ・アプローチの再検討」を執筆投稿した。投稿論文は『西日本哲学年報』第19号に採用・掲載されている。 本年度獲得された知見は次のとおりである。これまでの研究から、障害学の理論的インパクトを正面から受けとめうる倫理学理論はケイパビリティ・アプローチであることが明らかとなった。本年度発表論文でも詳述したが、その理論的な強みは、障害を個人の「不運」に切り詰めることなく、障害者の生活環境を社会的に変革する方向で、問題を仕立て直せることにある。さらに注目すべきことに、ヌスバウムは「われわれはみな、程度の差こそあれ、障害者である」という、一種の人間本性論を提唱している。この立場では、本来障害者を特別なカテゴリーで括り出す必要が本来ありえない。したがって、いわゆる障害者への福祉サービスは、障害者が社会的に被る「恩恵」ではなく、社会構成員全員が尊厳ある生を営むために請求する権利に基づくと捉え返される。この発想の延長線上には、ユニバーサル・デザインに則った社会環境整備を正当化する道が開かれるだろう。本年度発表論文では、この点を強調している。配分的正義の枠組みでは、障害者への財の再配分が非障害者の取り分とトレードオフに陥るという危惧を解消する可能性がユニバーサル・デザインという思想に読み取りうるからである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画を立てたときに予想していた以上に、障害を哲学的に研究する文献が多かった。ある程度は収集しているが、いまだ全貌をつかむには至っていない。今年度も引き続き文献資料収集に努めながら、内容を精査しつつ整理して指定つもりである。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の予定であった「障害」概念を形而上学的に分析するという課題は、いったん後回しにする。それほど研究が進んでいない上、先行研究が研究計画を立てるときに想定していた以上に蓄積されており、最終年度一年では十分咀嚼しきれないからである。そこで、研究計画通りに最終年度は応用倫理学的な研究を行うことにする。その過程で必要に応じて「障害」概念研究を調査していくことにする。
|
Research Products
(1 results)