2011 Fiscal Year Annual Research Report
人の生命に関わる意思決定の倫理的価値構造に関する研究
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22520031
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
吉武 久美子 順天堂大学, 医療看護学部, 准教授 (90468215)
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Keywords | 合意形成 / 意思決定 / 倫理的価値 / 理由の来歴 / 生殖医療 / 倫理研修 / 終末期医療 / 包括的ウェルネス |
Research Abstract |
本年度の研究目的は、関係者の思いや意見にある理由を深く分析するための「理由の来歴」という概念を用いて、ライフサイクル・ライフステージ、災害、緊急時などの多様な状況によって、倫理的価値の扱われ方がどのように異なるのかを明らかにすることであった。 本年度は、出生から死にかかわる領域まで範囲を広げて、1)沖縄県国頭村地域で共同の墓地を守る住民との意見交換、2)東日本大震災の被災地状況の視察、3)人が亡くなったあの世のことも想定した宗教団体との意見交換などを通して、人が元気なうちから、家族や地域の人との間で、生と死についての互いの意思を確認することの重要性を確認した。 本人の意思の確認が難しい死に関する意思決定のケースでは、人がどのように生き、また死を迎えたいかという問題に関し、個々人の生と死に対する倫理的価値観の把握を行うために重要なものとして、「理由の来歴」の概念についての考察を深めた。さらに、緊急時における生死にかかわる行為の選択においては、すでに学会で発表している「包括的ウェルネス」の重要性を再確認し、本概念についての研究を深める必要性を認識した。 本年度の研究成果としては、生殖医療行為を中心とした倫理的価値構造について、著書『生命倫理と意思決定-よりよい意思決定と紛争解決のために』(昭和堂)として出版した。また、「理由の来歴」の概念について、論文「医療の合意形成と理由の来歴」を「医学哲学・倫理学会」誌に投稿し、掲載された。 実践面では、医療・看護領域での複数の医療機関からの倫理研修の依頼を受け、本研究の成果を踏まえて研修プログラムを組み、医療者に対する医療倫理・看護倫理の研修・教育をする一方、倫理的問題に対する「価値の対立の克服」のための支援システムの構築の必要性を認識した。 来年度は、本研究の成果を組み込んだ倫理研修のためのテキストブックを執筆、出版する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
それぞれの目標に対して、理論的考察および地域での調査を踏まえたものを総合しつつ、研究を進めることができている。また、研究成果を学会発表および投稿「医療の合意形成と理由の来歴」(医学哲学医学倫理学会)、出版『産科医療と生命倫理-よりよい意思決定と紛争予防のために』(昭和堂)という形にまとめることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、すでに導出した重要な概念「理由の来歴」、「包括的ウェルネス」についての吟味をさらに深く行いたい。具体的には、最新の国内外の文献等の比較、現地調査などから、医療に関わる意思決定の多様な意見の背後にみえる風土性の考察も加えて、平常時・非常時の両者を含む人の生命の意思決定に関わる倫理的価値構造を明らかにする。 本研究全体の成果も踏まえる形で、これまで行ってきた研究成果を統合して理論化するために、医療機関での医療従事者に向けた倫理研修のためのテキストブック『倫理研修テキストブック(仮題)』を執筆予定である。
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Research Products
(3 results)