2011 Fiscal Year Annual Research Report
技術者倫理教育における美徳育成論等の新動向調査および技術者倫理教材の建設的批判
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22520037
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Research Institution | Tokyo National College of Technology |
Principal Investigator |
川北 晃司 東京工業高等専門学校, 一般教育科, 教授 (30353254)
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Keywords | 技術者 / 倫理 / 教育 / 美徳 |
Research Abstract |
連携研究者(河村豊・浅野敬一・木村南・庄司良)による協力のもと,平成23年度中に2本の論文を執筆し紀要に発表した.本研究代表者の執筆部分について記述すると,川北は共著論文「技術者倫理教育の立場から東日本大震災を考える」においてその第2節を分担執筆した.その節は「エネルギー収支比(EPR)のメディア相対性--電気学会編『技術者倫理事例集』VIII章の問いに関する考察」と題された.その具体的内容は,EPRは有用な指標ではあるが,その数値はメディアに相対的であり,単一の発表値に現状で過大な意味を期待しない方が賢明であることの論証である.原子力発電のEPR優位性が揺るがないかに見える教材記述に疑問を呈した本論考は,電気学会倫理委員会にも提出され,結果的に教材の改訂も視野に,学会内で真摯に検討されることとなった. また論文「福島第一原発事故と技術者の美徳」において,本研究の目的に照らして,下記2点を主張・論証した.1)福島第一原発事故の事例は,技術者に必要な倫理・美徳について考えさせるという点で大いに教訓的である.2)リスク論の分野で邦訳書もある,故ハロルド・ルイス氏(米国の物理学者)の著書である,Technological Risk(Norton,1990)は,技術者の倫理と美徳を育成するための教材としても再評価可能であるが,日本の電力企業によって各大学に寄贈されたこれの邦訳書(『科学技術のリスク』1997年)には,重要な点で原書とはニュアンスの異なる部分が少なからず存在する.典型的には,原子炉事故の管理で最初の原則は決して「最悪の場合を考えないことである」と邦訳書では記されているが,ルイス氏はもっと慎重で非楽観的な記述を随所で採用していた.したがってルイス氏の著作を邦訳書のみで理解し援用するのは危険である. 上記のような研究結果は,技術者倫理教育における技術者の美徳育成および技術者倫理教材の建設的批判という本研究の主目的に叶うものと考えたい.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的に沿った論文が複数公刊された.
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Strategy for Future Research Activity |
1)国内外の最新文献を取り寄せて調査する.とりわけ技術者倫理と「美徳」育成論すなわち徳倫理(virtue ethics)の動向について注目する. 2)各学協会の「倫理綱領」見直しを提案する. 3)技術者倫理教育のためのビデオ教材について授業での活用方法を再検討する. 4)技術者倫理と重なるところの大きい,研究者倫理および医療倫理の基本文献を新たに収集し分析する.
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Research Products
(3 results)