2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520044
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
早坂 俊廣 信州大学, 人文学部, 准教授 (10259963)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 中国哲学 / 寧波 / 全祖望 / 浙東学術史 |
Research Abstract |
本年度は、「場所の記憶/全祖望の記録」(『中国―社会と文化』第27号,pp.196―211)「全祖望と鈔書の精神史」(『信州大学人文学部 人文科学論集〈人間情報学科編〉』第47号,pp.1-15)という全祖望に関する論文を2本、『文化都市 寧波』(小島毅監修・早坂俊廣編、東京大学出版会、総282頁)という寧波に関する編著を1冊、そして「慈湖の楊簡論」(吉田公平教授退休記念論集刊行会編『哲学資源としての中国思想』研文出版、pp.206-229)という寧波の文化保存に関する論文を1本、発表した。「慈湖の楊簡論」に関しては、論文発表の前に、宋代史研究会夏合宿の場で研究報告を行った。 具体的には、「場所の記憶/全祖望の記録」において、寧波における文化的「記憶」が全祖望によってどのように「記録」されたのかを解明した。また、「慈湖の楊簡論」では、寧波府慈渓県における「楊簡」論を通時的に取り扱うことで、同地における文化的記憶の継承と変容という問題を解明した。この論文の中で王梓材・馮雲濠について論及し、また『文化都市 寧波』所収の「「中国のルソー」を育んだもの」の中で、二老閣・五桂楼・伏●(ふ:足+付)室という、寧波における文化保存を知る上で欠かせない蔵書楼について論及した点は、ポスト全祖望を考察するうえで大きな意義を有する。『文化都市 寧波』に関してさらに言えば、全祖望が密接に関係をもった万氏一族を扱った論文や全祖望が敬愛した寧波地方の武将を扱ったコラムによって、寧波における文化保存の精神史を多角的に解析した。 これらの研究成果により、寧波の文化伝統が全祖望にどう流れ込み、そこからどのように引き継がれていったのかを明らかにすることができたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全祖望その人に関する研究は当初の予定以上に進んでいる。ポスト全祖望の時期に関しても、「研究実績の概要」で述べたように、それに関する論及を含んだ業績を多く発表しているため、順調に進展していると自己評価できる。ただ、王梓材や馮雲濠らの名前が表題に顔を出す研究業績を発表したわけではないので、「おおむね順調」を超えた評価を受けることはできないとも考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、当初の予定通りに研究を推進するつもりである。ただ、「現在までの達成度」にも記したように、王梓材や馮雲濠らの名前が論文タイトルに冠せられた研究業績を発表することはなく、今後も同様であることが予想される。彼ら単体で独立した論文を著そうとするよりも、全祖望を基軸に寧波地方の思想動向を通時的・巨視的に見渡したほうが、研究課題の目的を達成するうえで有益だからである。寧波の文化保存を考えるうえで、どうしても全祖望を軸に研究を進めることが、彼以前についても彼以後についても必要であるので、本年度もこの方針に従って研究を推進する。
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