2011 Fiscal Year Annual Research Report
「神と人間の一致」についての研究―キリスト図像とドイツ神秘思想からの考察
Project/Area Number |
22520065
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田島 照久 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50139474)
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Keywords | 宗教哲学 / 宗教学 / 美術史 / 西洋哲学 |
Research Abstract |
研究計画2年目は初年度の『アヴィニヨン鑑定綱の検討結果に基づいて、エックハルトの神と人間の一致」の言説がどのような思惟の枠組において語られているのかを探るために、エックハルトのラテン語によう主著『ヨハネ福音書注解』を中心に「誕生論」の理論構造解析に着手した。 その中でディートリヒの「本質的原因論」に対し、エックハルトの「本質的始原論」の「始原」概念が独自の時間(永遠)論を持つことが判明した。 エックハルトはアリストテレス、トマスの「瞬間」としての非時間的「今」の理解を神的存在(esse)・創造(creatio)・出生(generatio)のトリアーデの場である「始原」(principium)の解釈に導入し、非時間的「今」の「終端と始端の一致」の理解を、永遠における「始原と終焉の一致」として捉え直す。 さらにエックハルトは「生成と存往の一致」の理解を介して、瞬間における不断の継続的鋼造・出生(creatio continua,generatio continua)を導き出した上で、「本質的始原」(principlum essentiale>に関する独自の理論を構築したといえるのである。その「本質的始原」は「永遠の第一の単一なる今」(primum nunc simplex aeternitatis).と呼ばれ、「永遠的瞬間」を意味するが、こうした「始原」の有する一切の構造的契機は、「神の像」(imago Dei)である魂の、最内奥「魂の根底」の概念内実にそっくりそのまま投影されていることを確認することができた。 「薬剤師キリスト図像」の図像学的研究も資料集めから図像解析に至るまで予定通りに進んだといえる。「神と人間の一致」が信仰や愛、希望といった対神得によって人間にもたらされるという理解がこの図像から確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は、「神と人間が一致する」とはどのような意昧なのか、「神人合一」を説くドイツ神秘思想の言説と、神であると同時に人であるとされるイエス・キリストを画いた綴像を手がかりにし探ることを目的としているが、とくにエックハルトの思想解釈では神の場である「始原」が「魂の根底」の概念にそっくり移しこまれていることがこの段階で明確になったことは予想以上の成果であり、その意味で想定より進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
神の場である永遠がエックハルトの「始原論」を介して人間の魂の内に開かれている事が明らかになったことを踏まえ、今後は予定していたエックハルトの「アナロギア論」解明に並んで、「始原」が「知性」であるとされていたことを重くとらえ、ボエティウスが語った「永遠とは、果てしなき生命の、嗣時に全体的な、完全な所有である」という伝統的永遠定義の核心をなす「果てしなき生命」をエックハルトはどのように理解していたか、ひいては果てしなき生命と現実態にある存在とをどのように理解しているのかという問題に踏み込んでいきたい。図像学領域においては計画通りに研究を遂行する。
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