2011 Fiscal Year Annual Research Report
先駆的共生思想の日英比較研究-エドワード・カーペンターを中心に-
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22520075
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Research Institution | Seigakuin University |
Principal Investigator |
稲田 敦子 聖学院大学, 人文学部, 教授 (10017585)
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Keywords | 比較思想 / 共生思想 / 近代文明批判 / 公害問題 |
Research Abstract |
本研究の目的は、比較思想史の観点から、人類の普遍的課題である共生の問題を先駆的に提起しながらも、これまで近代思想史上であまり光が当てられていなかったいわば思想の地下水脈といえるエドワード・カーペンターと石川三四郎に焦点をあててその思想を掘り起こす試みである。この両者の思想的接点としての問題意識は、近代文明社会における蔭としての「負」の側面と、社会総体とその中での個と共同体の問題を、自然を射程に組み込むことにより、解決の糸口を探ろうとするものである。 平成23年度では、カーペンターの主著である"Civilization:Its Cause and Cure"(石川三四郎訳『文明-その原因と救治』に提起された近代文明の「負」の側面をとりあげ、具体的な公害の事例とともに両者の「影」認識を検討し、『聖学院大学論叢』第24巻2号に掲載した。本稿では、近代化が推進されるにつれて、肥大化した社会関係の中で、個的な存在は社会システムの規制状況に封じ込まれ、人間の現実的存在感は希薄となっていく状況をふまえ、この希薄化をめぐる危機的状況を強く意識したカーペンターによるシェフィールドの煙害問題を第一次資料から検討した。 さらに、カーペンターから影響をうけた石川三四郎によって日本における近代文明の蔭としての足尾鉱毒事件の問題性をも取りあげ、両者の思想的接点を明確にした。その思想的接点では、人間と自然との宥和的関係の危機を認識し、人間がその「内的自然」の統一性を失い、現実的存在感から遊離していくあり方への注視がみられる。平成23年度は、具体的な近代文明批判を検討することを主眼として論文にまとめ、最終年度での研究の基底とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において欠くことのできないエドワード・カーペンターの第一次資料をイギリスのシェフィールド市立図書館のカーペンター文庫で収集でき、彼の思想形成の全体像を把握する準備が整いつつある。また石川三四郎との思想的接点について、論点をしぼりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
石川とカーペンターの思想的接点では、現代における環境倫理の問題をも先駆的に取り上げられており、近代文明社会において調和の回復をめざす新しい局面での生活実践も行われてきたのである。こうした研究作業の成果を論稿にまとめるとともに、共生思想における共同体再編の問題を中心として検討を重ね、『共生思想の先駆的系譜-石川三四郎とエドワード・カーペンター』(2000年木魂社)の続編として刊行する予定である。
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