2013 Fiscal Year Annual Research Report
シーア派・スンナ派間の宗派論争に関する思想史的研究
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22520076
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菊地 達也 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (40383385)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | イスマーイール派 / ドゥルーズ派 / ヌサイリー派 / ヌサイル派 / シーア派 |
Research Abstract |
当初の計画ではシリア、レバノンに赴き、他宗派理解に関わる写本資料と刊本を収集する予定であったが、現地情勢に好転の兆しがなかったため、本科研による海外調査はおこなわなかった。ただし本科研以外の資金により渡航したバハレーンで入手した十二イマーム派神学書は本研究においても活用された。 本年度の研究において主に注目したのは、12世紀イエメンのイスマーイール派宗教書と、シリアを拠点とするドゥルーズ派とヌサイリー派(アラウィー派)の宗教テクストであった。イスマーイール派研究においては、博士論文で部分的に扱ったハーミディー文献の研究を深化させ再評価することを目指し、その成果はロシアと日本の学術誌において公刊された。 ドゥルーズ派、ヌサイリー派の研究においては、既に入手済みの彼らの聖典写本(ドゥルーズ派の場合にはRasa’il al-Hikmaなど、ヌサイリー派の場合にはal-Bakuraなど)や今年度新たに入手したグノーシス主義的な初期シーア派文献を活用し、彼らの古典文献において非イスラーム的と見られがちな教義(特定個人の神格化や輪廻思想)がいかに規定されているのかを分析した。さらに、現代になって両派の平信徒が出版活動に取り組むようになった事実に着目し、彼らの著作に見られる主張と古典期の宗教テクストとの差異についても分析した。それによれば、平信徒による聖典解釈は自分が置かれている政治的、社会的文脈によって大きく左右され、聖典の記述の扱われ方も選択的である。このような状況下で、スンナ派や他のシーア派といった他者の像だけでなく、自己像にも変化が起きており、現代信徒のテクスト解釈には、近代性や、多数派であるスンナ派の文化からの影響を見て取ることができる。以上のようなドゥルーズ派、ヌサイリー派に関する研究成果は、複数の口頭発表において公開された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011年以来、主要な研究対象であるシーア派諸分派が居住するシリアに行き、資料を収集できなくなったことはマイナスであるが、幸いにも近年これらの諸分派の宗教テクストの刊行が近隣諸国で進んでおり、それらの出版物を活用することでマイナスは相殺することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現地情勢が好転すればシリア、レバノン、イエメンでの調査、文献収集を実施する。本研究は最終年度を向かえようとしているため、平成25-26年度は成果の発表に重点を置く。平成25年度には比較的多くの発表機会を得ることができ、成果発表は計画通りに進んでいる。平成26年度は昨年度以上に刊行物による成果発表を重視する予定である。
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