2010 Fiscal Year Annual Research Report
「慰めの手紙」における東西教父思想への古代ギリシア情念論の影響史研究
Project/Area Number |
22520078
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
土橋 茂樹 中央大学, 文学部, 教授 (80207399)
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Keywords | 情念 / パトス / アパテイア / ストア派 / 教父学 |
Research Abstract |
本研究は、古代ギリシア思想における情念(パトス)及びアパテイア(情念の排除)論が、初期キリスト教思想にどのような影響を与えたかを、特に東西教父における「慰めの手紙」という文学ジャンルにおいて検証・考察することを目的とする。平成22年度は、本研究の初年度として以下の4種の研究活動を行った。 1、 予備的研究として、まずプラトンにおける情念の位置づけを『国家』篇を中心に考察し、その上で、アリストテレス『ニコマコス倫理学』『霊魂論』『詩学』の情念論と比較検討した。この研究の成果の一部は、平成22年8月開催の国際プラトン学会にて発表され、さらに平成23年3月公刊の『理想』に論文として掲載された。 2、 魂の働きを自然法則に一致する物理的なものとして一元的に理解するストア派情念論を、ガレノスらの医学的情念分析と比較しつつ、特に教父への影響が大であったポセイドニオスら中期ストア派に焦点を絞って体系的に理解するよう試みた。 3、 新プラトン主義及びペリパトス学派の反ストア的な情念論の立場を、ストア派との対比を明確化しつつ体系的に解明した。 4、 以上の情念規定を踏まえた上で、ストア派が「アパテイア」(いわゆる「不受動心」)と呼んでいたものを、同じくストア派由来の「エウパテイア」「プロパテイア」という概念と比較しつつ、総合的に理解するよう試みた。以上の(2)(3)(4)の成果の一部は、査読付論文として平成22年10月公刊の『中世思想研究』に掲載された。また、こうした研究成果の一部が、教父学的な観点から、平成22年7月にメルボルンで開催された初期キリスト教学会にて発表された。 以上を総括するに、断片的には従来も優れた研究が散見されたものの、本研究のように東西教父思想への影響という一貫した観点から総合的、体系的に研究されることは稀であり、まだ序論的段階とは言え、その点で大いに意義ある成果を得たものと思われる。
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Research Products
(6 results)