2011 Fiscal Year Annual Research Report
「慰めの手紙」における東西教父思想への古代ギリシア情念論の影響史研究
Project/Area Number |
22520078
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
土橋 茂樹 中央大学, 文学部, 教授 (80207399)
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Keywords | 情念 / パトス / アパテイア / カッパドキア教父 / ストア派 / 教父学 / 慰めの手紙 |
Research Abstract |
本研究は、古代ギリシア思想における情念(パトス)及びアパテイア(情念の排除)論が、初期キリスト教思想にどのような影響を与えたかを、特に東西教父における「慰めの手紙」という文学ジャンルにおいて検証・考察することを目的とする。平成23年度は、本研究の2年度目として以下の4種の研究活動を行った。 1、オリゲネスやクレメンスなどのアレキサンドリア学派、砂漠の師父としてエヴァグリオスや擬マカリオス、さらにカッパドキア教父が、「情念」をどのように解釈していたか、それぞれのテクストから探索し、どのように系統だてることができるか調査研究した。 2、バシレイオスとニュッサのグレゴリオスの『書簡』を中心に、「慰めの手紙」と見なされる書簡を選び出し、それらに共通する構造を摘出した。その上で両者を対比考察した結果、それらが聖書的な知見とギリシア哲学の伝統の両面から得られたものであり、また後者に関しては、それがストア派のみならず、反ストア派、たとえばペリパトス派からの影響も受けていたことを前年度の成果を基に解明した。 3、修道的な書簡に必ず見出されるアパテイア概念と、「慰めの手紙」に現れる「情念のよき活用」いわゆるメトリオパテイアとの比較、およびカッパドキア教父におけるアパテイア概念とストア派のアパテイア概念との異同を、前年度の成果を基にさらに追究した。 4、以上の成果の内、1に関連しては平成23年8月開催の東方キリスト教学会において、また2と3に関しては、平成23年8月にオクスフォードで開催された国際教父学会において研究発表した。前者は平成24年3月発行の『エイコーン』誌(査読有)に、後者は平成23年12月発行の欧文誌Patristica(査読有)にそれぞれ発表され、大いに意義ある成果を得たものと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画に則して調査研究した成果を、予定した国際学会において研究発表し、予想以上に大きな反響を得ることができた。この研究の目的が、国際的な研究状況においても、適正な評価を得た点は、大いに評価できる。また、国内の学会シンポジウムにおいて、関連するテーマを提題した際、本研究の基盤となるべき部分の研究に関しても広く関心をもって受け入れられた。調査については、まだ不十分な箇所もあるが、こうした国内外での発表成果は大いに評価し得る。ゆえに、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を統合したものから得られるギリシア教父における「慰めの手紙」の構造や性格を纏め挙げると同時に、新たにアウグスティヌスの書簡や説教から見出される「慰めの手紙」の構造や性格を研究した上で、両者の「情念」(パトス)に対する身の処し方の異同を問い、それぞれの固有性を明確に提示し、総合的な理解を求める。そのために、一つないし二つの国際学会で、その成果を海外の研究者に提供すべく、研究発表を行うこととする。
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Research Products
(6 results)