2011 Fiscal Year Annual Research Report
ユダヤ・ディアスポラの伝承・刷新を担った諸拠点をめぐる多元的研究
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22520080
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
合田 正人 明治大学, 文学部, 専任教授 (60170445)
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Keywords | ユダヤ教 / レヴィナス / ダニエル・シボニー / 三つの一神教 / 倫理学 / シオニズム / 存在論 / 倫理学 |
Research Abstract |
本年度の研究は、まずピエール・ブーレッツの浩瀚なユダヤ教論考の邦訳ならびに「シオニズムの解剖学」をめぐる共同研究の成果をまとめる作業から始まったが、その後、きわめて大きな二つの課題と取り組むこととなった。2011年はフランス国籍のユダヤ系哲学者エマニュエル・レヴィナスの国家博士号請求論文『全体性と無限』刊行から五○年の年で、フランスのみならず世界の複数の国でそれを記念するシンポジウムが開催されたのだが、報告者もまた、京都ユダヤ思想学会の夏合宿での発表 同学会レヴィナス・シンポジウムでの発表を行い、雑誌『現代思想』で村上靖彦氏と対談を行なったのに加えて、明治大学大学院の主催で、11月12-13日、フランスからサランスキ、クルティーヌ=ドゥナミ、ベンスーサンの三名の教授、ドイツからトマス・ヴィーマー氏、ロシアからヤンポルスカヤ氏の計5名を招聘して、『全体性と無限』刊行五〇周年記念国際シンポジウムを開催し、きわめて豊かな読解の可能性を得たと思っている。続いて、2012年3月には、日本ではまだほとんど知られていないフランス国籍のユダヤ系思想家(数学者、哲学者、精神分析家)、ダニエル・シボニー氏(1942-)を招聘し、レヴィナスならびに「三つの一神教」をめぐる講演を実施した。シボニー氏はモロッコのマラケシュ生れのユダヤ人で、アラビア語をまず修得し、コーランを幼少期に読んだ人物で、だからこそ「三つの一神教」の三つ巴の絡み合いを語りえたのだろうが、氏の知遇を得たことは本研究の今後の展開にとってきわめて重要な意味を持つ出来事であったと言える。これらと併行して、毎月の同僚との共同研究で、アドルノ、ベンヤミン、ブーバーといったユダヤ系思想家たちをめぐる議論を深めることができたのも貴重な収穫であった。来年度はパリでの在外研究となるが、それに向けての前硝という意味でも実に実に充実した一年であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度がちょうどレヴィナスの博士論文『全体性と無限』刊行50年にあたったため、内外で数多くのレヴィナス・シンポジウムが開催された。報告者自身そのひとつを主催したのだが、このような状況が有効に作用して、内外の優秀な研究者たちとの対話も広がり、レヴィナスについてのみならず、スピノザのオランダ、ドイツ啓蒙期のユダヤ教思想運動についても、新たな知見、新たな資料、新たな展望を得ることができた。ダニエル・シボニー氏の招聘に成功したのもきわめて大きな成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は明治大学の長期在外研究員としてパリに滞在するため、この利点を活かすかたちで研究活動を推進したいと考えている。まず、ヨーロッパのディアスポラ・ユダヤ教の拠点「全イスラエル同盟」の古文書館の利用とその歴史についての調査。ユーロ・フィロゾフィーの枠組みのなかでの、ベルクソン、ジャンケレヴィッチ、レヴィナスについてのトゥルーズでのシンポジウムへの参加。レヴィナス『存在するとは別の仕方で』をめぐるシンポジウムでの発表。更に、8月にはイスラエルを訪問し、エルサレム・ヘブライ大学にてワークショップを開催する。在アメリカのブーバー研究家らも参加の予定であり、これによって今回の課題は大きく進展することになるだろう。フランス国立図書館での資料調査を日々継続することは言うまでもない。
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