2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22520085
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Research Institution | Shitennoji University |
Principal Investigator |
矢羽野 隆男 四天王寺大学, 人文社会学部・日本学科, 教授 (80248046)
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Keywords | 思想史 / 漢学 / 懐徳堂 / 並河寒泉 / 藤澤東〓 / 泊園書院 / 『辨非物』 / 徂徠学 |
Research Abstract |
本研究は、懐徳堂最後の教授・並河寒泉の日記『居諸録』や詩文集、陵墓調査報告書など、従来あまり活用されてこなかった資料を用いて、幕末維新期における大坂漢学の思想史的な意義を明らかにすることを目的とする。大坂漢学の対象の中心は懐徳堂であるが、同時期に隆盛を誇った徂徠学派に属する泊園書院の藤澤東〓の思想も対照的な研究対象としている。 23年度は、22年度に引き続き、原本が天理大学図書館に所蔵される寒泉の日記『居諸録』の複写をもとに、情報抽出の作業を行った。『居諸録』には、京都大学図書館に所蔵される、戦後に書写された副本がある。精確を期するため副本の複写を入手し、副本を参照しながら抽出作業を行った。抽出した情報は、I学生(名前・身分・入退学時期・謝礼等)、II講学(懐徳堂や出講先での受講者<人数>・講義内容<書名・篇名>・期間等)、III学術交流(相手・内容)、IVその他(時事への所感・論評等)である。 また23年度は、泊園書院の藤澤東〓の著書『辨非物』の「序」部分の訳注を公表した。予定では平成25年度の作業であったが、解読・訳注に着手していたため繰り上げて行った。『辨非物』は、懐徳堂の五井蘭洲が徂徠の『論語徴』を批判した『非物篇』に対して、東〓が徂徠学の立場から再批判した書である。朱熹、徂徠、蘭洲、東〓の重層的な議論を整理しつつ東〓の主張を明示するため訳注の形式をとった。ここには懐徳堂朱子学と泊園徂徠学との間にある学問観・学問方法などに対する対立が明らかである。しかし一方で、変革期において尖鋭になる尊王論・国体論も窺え、従来、対立が強調されていた懐徳堂と泊園書院との接点も見いだせた。朱子学と徂徠学との学派的な対立の一方で、幕府との関わり方において立場は異なるものの、変革期の大坂漢学には相通じる方向性があったといえる。その方向性は明治期の泊園書院や重建懐徳堂へとつながってゆくものと考えられる。これは今後の検討課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
並河寒泉の日記『居諸録』の情報抽出・整理は、本研究の中心課題である。これは22年度に原本の複写を入手して以降継続している。しかし、その抽出の対象とした情報、特に上記概要に記したIVの政治社会の出来事への所感・論評が複雑かつ多岐にわたり、その解読、抽出、整理に予想以上に時間を要した。
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Strategy for Future Research Activity |
並河寒泉の日記『居諸録』は、幕末維新期の政治・社会に関する風聞やそれに対する寒泉の所感・論評が見られ、当時の社会を知る上で有用である。ただ、政治・社会に関する記述が分量も多く、内容も複雑であるため、作業の遅れを招く原因となっている。そこで抽出する情報に優先順位を設け、まず上記概要に記したI・II・IIIの学生・講学・学術交流などの情報の抽出を進め、時間的な余裕があれば、政治・社会関連の情報抽出に進むことを考えている。 また23年度に訳注を公表した『辨非物』「序」部分は、全体の三分の一で、まだ「学而」「為政」と「八イツ」の冒頭とを残す。ただ、東〓の懐徳堂朱子学批判の言説は「序」部分においてもその特色を見て取れることができる。よって24年度は、本研究の中心課題である『居諸録』の解読、情報抽出・整理を優先し、『辨非物』の訳注の続編は25年度以降にまわすことを考える。
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