2012 Fiscal Year Annual Research Report
中国イスラーム「道学」思想の発展とジャーミー思想の思想系譜学的研究
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22520086
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Research Institution | St. Thomas University |
Principal Investigator |
松本 耿郎 聖トマス大学, 人間文化共生学部, 教授 (00159154)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | タウヒード / ワラーヤ / 完成 / 礼乗 / 道乗 / 真乗 / 愛 / 復活 |
Research Abstract |
イスラーム思想は森羅万象の一つ一つが唯一の真実在者アッラー(真主)に起原し、最終的にはその真実在者のもとに帰ってゆくという新プラトン哲学的世界観を枠組みとして人間存在のあり方を模索する。この思想的枠組みの中で発達した思想の中でもイブン・スィーナー(アヴィケンナ)の存在論、アブー・ハーミド・ガザーリーの人間学、イブン・アラビーの神智学は特に重要であるが、これ等の諸思想を総合するアブドッラフマーン・ジャーミーの存在一性論思想はその後の中国イスラーム世界を含むイスラームの信徒の世界観、人生観の思考様式を決定している。とりわけイブン・スィーナーのあらゆる被造物は完成を目指す途上的存在であるという存在者理解は生命尊重と暴力嫌悪の意識をイスラーム信徒に植え付けている。ここから、イスラーム人間存在論では生命尊重思想と表裏一体となる愛の思想が発達してくる。この愛の思想の起原をアッラーの世界創造の原因であるアッラーの自己愛にもとめる神=世界関係理解が中国イスラーム思想においては完成の方法を定式化する道学の骨格を形成している。中国イスラーム世界の宗教指導者を養成する経堂教育における伝統的カリキュラムにおいては十三本経の学習を中心にしているがこのカリキュラムの最終段階ではアブドッラフマーン・ジャーミーの宇宙論的愛に関する作品『アシッアト・アル・ラマアート』(光の輝き)の修得が義務付けられている。しかしながら現代中国においてはこの明末に始まるカリキュラムは重視されず僅かに天津および河北省の中国イスラーム教徒たちの間でのみ守られている。この事実は前年度の現地調査で確認した。以上がこれまでの研究調査で明らかにしえた研究内容の概略である。最終年度に当る今年の研究においては十三本経のカリキュラムを貫通する思想とその展開相を特に馬復初の思想を中心に探求する計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スーフィズムを人間完成の方法として位置づける中国イスラーム経堂教育のカリキュラムの中の道学という言葉の意味領域を馬復初の『漢訳道行窮境』の全文を読みくだしを作成した。これに基づき中国イスラーム思想における「全体大用」のいみを分析し朱子における「全体大用」との相違を明らかにすることが出来た。この研究は「大化総帰」の内容解明につながるものであり、これは中国イスラーム思想における死生観を明らかにすることにつながる。人間は死後にも霊魂完成の努力がおこなわれるように霊魂を浄化しなければならないという思想が見えてきた。次の研究につながる研究結果がつぎつぎに見えてきたというかぎりでこれまでの研究は「おおむね順調に進展している」と言えるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
十三本経の最終段階におかれるジャーミーのアシッアト・アル・ラマアート(光の輝き)と馬復初の『大化総帰』の思想的関連性を明らかにすることが当面の課題である。最終年度の今年はこの課題に集中的に取り組む予定である。
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Research Products
(3 results)