2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22520098
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 大輔 名古屋大学, 文学研究科, 准教授 (00282541)
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Keywords | 美術史 |
Research Abstract |
2011年度は『肖像画の時代-中世形成期における絵画の思想的深層』を上梓し、研究の中間まとめを行った。本書において、筆者は、日本の写実表現の重要な一翼を担う鎌倉時代俗人肖像画の展開過程を跡付けた。鎌倉時代俗人肖像画は、似絵を軸に展開するが、この似絵は初期・中期・後期の三期に区分できる。初期の似絵は、行事絵と親しく、行事絵的な特定性を持っていることが特色として挙げられる。中期の似絵は、芸能の主題が浮上してくる点に特色があり、芸能の興隆を通じた、宮廷の盛儀を描くことを主題としていると言える。後期の似絵になると、それまで像主と観者はともに同時代の人物であったところから変化し、通時的に人物を連ねる列影図形式が登場する。こうした三期に分かれる一方で、似絵制作の動機として一貫するのは、徳治を表象するという意図であることも明らかにした。 また似絵研究の一環として2012年2月に国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)を訪問し、架蔵の歴史資料「広橋家旧蔵記録文書典籍類」のうち、「題未詳」一軸(H-63-993)の調査を行った。調査は、まず全巻の写真撮影を行うとともに、細部の撮影も行った。さらに、同巻に含まれる「似絵詞」について既翻刻の文書(米倉迪夫「似絵詞について」『国華』960号掲載)と厳密に対照し、異同を確認した。また、虫食いなどで難読になっている部分の筆跡も確認し、米倉氏による翻刻の妥当性について検討を加えた。 「似絵詞」は似絵を享受した貴族が、似絵を絵画史的に自ら位置づけた、似絵の思想を知る上での第一級の同時代史料であり、文言の確認によって、思想を読み解く基礎を築くことが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は主著となる『肖像画の時代-中世形成期における絵画の思想的深層』を上梓することができ、本研究課題の中間的な報告をまとめることができた。本書は、鎌倉時代の肖像画について主として論じたものであり、本研究課題「日本における写実表現の再検討」の対象とする時代の一半について論述したものである。その意味では、中間年を迎えるにふさわしい業績を上げることができたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、日本の写実表現として、鎌倉時代における肖像画の発展と、幕末期における西洋画摂取を主たる論点とするものである。上述のように、鎌倉時代における肖像画の発展については拙著『肖像画の時代』に中間的なまとめを示すことができたが、「承安五節絵」など、なお論じきれなかったものが多い。そこで、東北大学本などの写本を調査し、「承安五節絵」についての論文をまとめて拙著の不足を補うことを第一の目標としたい。 次に、中間年を迎えて、研究課題の後半部分である幕末期における西洋画摂取の問題についても本格的に論じてゆきたい。特に渡辺崋山の「鷹見泉石像」を中心に据え、この作品の調査を実施するとともに、この作品に結実した西洋画摂取の様態を、これまでにない新しい視点から論じてゆきたい。
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Research Products
(1 results)