2011 Fiscal Year Annual Research Report
東アジアの生態・環境美学的自然美の研究―日本を焦点として―
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22520100
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
青木 孝夫 広島大学, 大学院・総合科学研究科, 教授 (40192455)
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Keywords | 雨の美学 / 環境美学 / 日本の美学 / 雰囲気の美学 / 生態美学 / 自然美 / 気象の美学 |
Research Abstract |
具体的内容:(1)気象・天候を風流とする感性は、環境世界を身心全体で受容する傾向を示し、視覚優位の自然経験とは異なる。気象を美的に享受する感性は、種々の次元で制度化され、時雨や吹雪の名前を有つ銘菓・銘酒が示すように絵画や俳句のみならず生活文化に及ぶ。更に、我々の日常的な自然認識に浸透している。2011年5月、上記趣旨でポーランドで開催された学会で、水と気象に関する発表を行った。 (2)気象の美学と風景概念との関わりめ一部を朦朧の美学として進展させ、中国で8月の国際会議で発表した。その論考の一部「雰囲気的景色観と雨境」が『日常性の環境美学』に収載された。中国語また英語の発表原稿も学術誌掲載に向けて準備中である。 (3)雨や雪は歳時記中で「天文」に分類される。気象は季節・四季と一体化して歳時記に代表される文化制度となり、文化の表現や展示の暗黙の枠組みとなり、人々の感性にも深く浸透している。その分析は、上記の国際学会で一部発表し、また他部分を2012年度の学会発表の原稿として準備中である。 意義:東アジアに顕著に認められる雰囲気また気象の美学を指摘し、視覚の美学との相違を解明した。夜雨や朧や夕暮といった状況での自然美体験を具体的に解明し、理論的考察を進展させ、西欧の景観や自然美の美学とは異なる理論的又文化的な展望を開いた。 重要性:気象は、環境問題に大きな影響を及ぼしている。夕暮や夜雨という気象的自然に即した日本の美学伝統には、深く倫理的問題が関与している。「雨中の月」や「枯れ野の薄、有明の月」に示唆される自然美は、主体の教養・徳性や人格性と深く関わる。自然は倫理的に保護されるべき環境というだけでなく宗教や倫理の理想と関わる。その問題に美学は深く関わる。かくして雨や朦朧を焦点に東アジアめ美的伝統の解釈を通して、従来の環境学や自然観に新しい光を投ずることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定した国際学会で発表を行い、それぞれ英語と中国語で投稿した。中国での発表の一部は日本語論文となり、他も投稿中であり、概ね予定通りである。学会発表他や論考の準備を通しても、雨を中心とする気象の美学の理論的意味および文化的肉付けを進めることができた。個別的な雨を核に気象一般の問題圏域へと考察が展開し、後者の文化資料面では、古典文学等の分析と平行して浮世絵等の絵画資料や歳時記へと研究が展開した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の展開方向は3点ある。それぞれの関連も含めて列挙する。(1)これまでの路線で、著書執筆を念頭に、雨や気象の美学の豊かな文化的事実の解明と併せ、理論化、言語化を一層進める。(2)主体を構成契機とする環境美学の構図は、言語・思考・文化・感性の問題と深く関わる。とくに「しみじみ」「しみる」「しめやか」「浸る」等、水・湿気に関連した語彙を検討し、美的体験の重要な一面を解明し、(1)に組み込む。(3)朦朧の美学の核にある自然美体験は、視覚を超えた身心の関与が大きい。浸る等、主体の境地が構成契機となる雰囲気や気分重視の美的体験は、入浴や瀧行などsomaestheticsの問題圏域とも重なる。新鮮な目で感性と日本文化の関わりを考察し(1)に組み込む。
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