2010 Fiscal Year Annual Research Report
純粋音楽の思想 ―音楽美学者としてのヨーゼフ・マティーアス・ハウアー研究―
Project/Area Number |
22520121
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
木村 直弘 岩手大学, 教育学部, 教授 (40221923)
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Keywords | J.M.ハウアー / ノモス / 新ウィーン楽派 |
Research Abstract |
いかなるピッチクラスも全12のピッチクラスが使用されないうちには反復されてはならないというのが12音技法の基本原則であるが、ハウアーは、この、どの音も支配的にならないように配する「法則」およびそれにに基づいた音楽を「ノモスNomos」と名付けた。12の整律された半音を2つの6音グループ(ヘクサコード)に分け、それらを組み合わせて作曲するのが、ハウアーの「トローペTropen」理論である。こうした理論の根底に存する「ノモス」「メロス」といった古代ギリシャ由来の概念は、同時代の新ヴィーン楽派の作曲家たちにも見られるが、たとえば、アントーン・フォン・ヴェーベルンは、プラトン『法律』由来で「法律、法則」を意味する「ノモス」に「節(ふし)=歌」という意もあることに着目し、基本音列を「ノモス」と名づけそれをゲーテの「原植物」に比した。一方、ハウアーの「ノモス」は、こうしたプラトン由来の「法則」「節(ふし)」という意味だけでなく、(法学者カール・シュミットが「場所確定と秩序とを自己の中に統一する基礎的な経過を悟らせることに適し」た語と指摘しているような)すべての基準を基礎づける最初の測定、すなわち「空間分割」を意味するギリシャ語の語原に近い意味を包含していた。ハウアーにとっては、「節(ふし)」とは「分節」=分割されたものである。まさに「等分(12音)平均律」は1オクターヴを均等に「分割」したものであるがゆえにハウアーの美学において中心的位置を占めることとなった。「旋律における絶対的客観性は、結局、個性という犠牲を要求する」としたハウアーにとってこうした非個性的・非感覚的な「分割」に基づく形式的「純粋性」を象徴する術語がまさに「ノモス」だったのであり、この点に、12音技法が調性にかわる作曲家の個性の表現技法として用いられた新ヴィーン楽派の「ノモス」概念との差異も存していたことが明らかになった。
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