2011 Fiscal Year Annual Research Report
視覚的群衆演出の成立 ドイツ・ワイマール期の表象芸術
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22520141
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
山本 順子 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (80295576)
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Keywords | ドイツ / 群衆論 / 映画論 / 集団 |
Research Abstract |
1.初期映画論:1910年代から20年代にかけて、カペラーニやグリフィス、ラインハルト、ルビッチなど数多くの歴史大作が生まれた背景に、群衆シーンの特質があることが確認された。従来の視覚芸術である演劇の舞台上の個人とは異なる、昂揚(感情)や人間社会の機構(ヒエラルヒー)は、移動するカメラと巨大スクリーンという映画的媒体の可能性追究のための恰好の被写体ということを結論づけた。 2:表現主義映画研究:資料収集状況、思想史的観点から、研究の対象とする作品を1924年のプリッツ・ラング『ニーベルンゲン』が重要な地点に立つ作品であることが判断された。その理由として、1)様式の図像学的比較検証により、集団の構図を歴史的にたどることができること。19世紀後半の統一ドイツにおける民族神話要求が世紀転換期に出版されたインゼル社絵入り簡約版『ニーベルンゲン』に現れているとみれば、この新様式はいわゆる「大衆の装飾」のための美的媒体となっていることがわかる。絵画が集団の空間配置に関与し、政治的関係を美的関係に変換している様は、その影響下に立つ1924年の映画で、集団の時間的配置、すなわち運動がこの変換を担うのだという前提で今後研究する。2)Massenregieの系譜に位置づけられること。その際戦争、宮廷という伝統的な集団が新しい集団媒体である映画的表現になっているのだ。3)入手した、脚本という文字媒体が映像化の過程分析を可能にすること。 3:映画技術論:近代のもたらした制度として映画、戦争を並列してとらえ、この二つがいかに密接にかかわり発展し、また、近代的表現のありかたを定めたか検証した。具体的には映画監督アレクサンダー・クルーゲの空襲文学の分析である。マルクスが指摘したように、近代的人間精神は生産関係に表れ、それはまた、空襲の戦闘態勢にも、美的ディスクールにも同様に当て嵌まることなのである。 4:大衆論:集団心理学(フロイト)、社会学的大衆把握(ジンメル他)、文学的表現(モーパッサン他)などを含んだ大衆論が第二次大戦後のナチ期反省として編纂されたことは特筆すべきである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
資料収集の際、およそ千頁にわたる撮影をし、その画像をPDFに変換した上で処理しやすいようにブックマーク、タイトル等をつけているが、高速に運ばず、また、操作勝手が悪いことが理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の収集資料の整理(PDF書類の整備)を完了し、今年度の図書館作業に向けて新たな不足資料のリストを作成すること。また、デジタルリマスター版のフリッツ・ラング『ニーベルンゲン』を把握し、詳細分析に備える。大衆論のデータベース化をすすめ、緒論の自在な比較を可能にすること。その際、フロイトの集団心理学を中心とした19世紀末の大衆表象の分析結果について、論文にまとめ、発表することでひとつの成果とする。
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