2012 Fiscal Year Annual Research Report
演劇・映画を通して表出されるアボリジニのアイデンティティ
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22520154
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
澤田 敬司 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (50247269)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 先住民 / 核兵器 / 演劇 / 文化交流 |
Research Abstract |
前年度から実施している先住民演劇『ナパジ・ナパジ』(スコット・ランキン+トレヴァー・ジェイミソン)の日本上演による実践的調査によって得られた考察を、Ngapartji Ngapartji: An Australian Indigenous Plays Evoking Memories of Maralinga, Hiroshima, Nagasaki, and Fukushimaとして、シドニー大学国際シンポジウム"Looking back on the Asia-Pacific War: Art, Cinema and Media"にて招聘講演として発表し、またその日本語版論文も早稲田大学法学会『人文論集』51にて発表した。本論文は、文学研究の分野で世界的に関心の持たれている「先住民文学と核兵器」のテーマについて、「オーストラリア先住民」「日本」「演劇による文化交流」という三つの新しいアプローチを付け加えた画期的な論考となった。 当該年度は進行中の研究として、アンドリュー・ボヴェル作の先住民演劇『秘密の川』、先住民オペラ『ピーカン・サマー』の上演についてフィールドワークし、作者にインタビューを行うなど資料収集を行った。さらにジョン・ロメリル作『ミス・タナカ』の結城座による日本上演を行い、その実践的調査により、作者へのインタビューなど多くの資料を得た。これらは、次年度に分析と検討を加えた上で、論文として公表する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の当初の目的は、オーストラリア先住民アボリジニが演劇・映画という媒体を通して自らをどのように表出するかという問題であり、ほぼ研究計画に則って、近年の代表的な作品群についてそれらの調査考察を行ってきた。 研究計画以上の進展を見せたのは、研究担当者がいくつかの演劇公演について実践者としてかかわり、オーストラリアの表現者たちと議論や意見聴取を行いながら研究を進めることができた点にある。たとえば『ナパジ・ナパジ』や『ミス・タナカ』など、アボリジニの物語でありながら、日本・日本人との接触・介入が作品に一定の要素を持っているものについて、日本上演という実践的な調査分析の場を創出し、制作者たちや観客の反応など、いままでにない資料を数多く収集することができたことは、本研究課題をきわめてユニークな位置へと置くことにつながっている。 したがって、「外国文学研究」のジャンルに入る、オーストラリア先住民についての本研究課題が、主に日本で実施され、日本語で成果が発表されることの意義が、このような新たに加わった要素によって、より明確になった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は先住民がミュージカルという表現方法を、舞台・映画というメディアを使い分けながらどのように用いてきたのかを、『ブラン・ニュー・デイ』『ザ・サファイアーズ』など具体的な作品を取り上げながら分析・考察を行う。また、『ザ・サファイアーズ』についてはその上演に関する実践的調査のために、日本で劇団の協力を得ながらワークショップを実施することになる。 さらに、オーストラリア先住民児童文学の古典である『少年と海』の舞台化について、オーストラリアでの上演のフィールドワーク調査を行う。 また、今年度は本研究計画の最終年度に当たるため、これまで収集しながらまだ論文化されていなかったものについて、その作業を進め、本研究課題が終了した直後に、単行本として公表するための準備を行う。
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