2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22520171
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長島 弘明 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (00138182)
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Keywords | 和文 / 文人 / 上田秋成 |
Research Abstract |
1.上田秋成の『藤簍冊子』収録の和文、またそれ以外の和文を詳細に検討した。秋成の和文の語彙は王朝古典から大きな影響を受けているが、とりわけ秋成自身が校訂に携わった『大和物語』『落窪物語』の用語の影響や、師系にある賀茂真淵・加藤宇万伎の注釈の校訂に秋成が関与している『伊勢物語』『土佐日記』の用語の影響が強い。校訂に際して王朝の和文を繰り返し熟読する経験が、自ずと和文創作の際の自らの文体形成にも影響を与えているゆえと思われる。 2.秋成の和文が影響を受けている王朝古典の中でも、とりわけ『源氏物語』からの影響は顕著である。和文のみならず、小説作品の文章にまで『源氏物語』の文章の一節を踏まえた箇所が少なからずあることが指摘できる。これは、秋成が青年時代に懐徳堂で学んだ五井蘭洲と、三十代に本格的に国学を志した際の師である加藤宇万伎の二人が、学問の系統は漢学者出身と賀茂真淵門と分かれるにしても、ともに『源氏物語』研究書を著し(蘭洲は『源語梯』、宇万伎は『雨夜物語だみこと葉』)、『源氏物語』を高く評価する学者であったことの影響と見てよい。 3.橘千蹊や村田春海らの江戸の文人の和文に自然描写を主としたものが多いのに比べ、秋成や伴蕎瞑らの上方の文人が創作した和文には、自然描写とともに人事に関わる記述を多く含む。また、上方の和文創作の会と、江戸の和文創作の会(江戸派中心)で、それぞれ出された和文の題を比較してみても、歳時的な題の多い前者に比較して、人事的な題の少なくない後者という違いがある。上方の和文には、物語的の文体としての和文という意識がかなり強いように思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
和文作品の中で、昨年度は和文小説に比重をおいて研究を進めたのに対し、2年目の今年度は、小説以外の和文体の文章の検討に比重をおいた。両年の成果を比較しつつ、同じ和文ながら、小説とそれ以外の散文では、語彙やレトリックの方法に大きな差異があることがわかった。また、同じような国学者・文人の手になる和文といっても、上方の和文と江戸の和文には素材・内容に相応の相違があることが明らかになってきたが、その相違が生じた理由を、文学伝統や風土の面から考察を深めつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年の平成24年度は、和文が創作される具体的な場として和文の会をとりあげる。これも上方と江戸と両方の地域に別様の和文の会があり、それぞれの地域的な特徴を明確にしたい。また、出版された和文集をめぐる、作者、編集者、出版社、読者の関係と、和文集に対するそれぞれの立場からする意識をさぐりたい。研究方法は、原本の複写・撮影を中心とした資料収集はこれまでと同様続行するが、さらに3年間の研究の総まとめとして、如上のような新しい観点から和文作品の特質を総合的に考察した成果を公表したい。
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