2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520176
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
渡邊 秀夫 信州大学, 人文学部, 教授 (90123083)
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Keywords | 勅撰和歌集 / 和漢比較文学 / 礼楽思想 |
Research Abstract |
前年度に引き続き、古典研究にあって、ブッキッシュな出典論・材原論では届かない手法的限界に、どのように向き合うのか。勅撰和歌集の序文の解読に際し、古代礼楽思想-先秦時代から宋学を経て知の基盤を成す儒教的人間観(性情論・世界観)の体系的な理解-が、研究上いかに必要不可欠な前提であるかについての考察をさらに進めるとともに、「仮名散文の創出-古今集序をめぐって」(国文学解釈と鑑賞76-8)、や同済大学(上海)・北京日本学研究センター等での招待講演や研究者交流及びこれに付随する文献調査・資料収集を行った。これらを通じ、(1)現在大きな疑念も抱かれず一般化された近代以降の通説の一例を批判的にとりあげ、中・近世の古注釈類の解釈例をも参照しながら、前近代の"儒教的な思想的枠組み"を復元的に共有することによって、それらをベースとして成り立つ古代の言説の同時代的な("本来の""あるべき")解釈を呈示し、前年度の成果を基にさらに検証を加えるとともに、(2)従来の和漢比較研究における出典・材原論の限界性(なぜ、その時期にそのようなものをこのように意味づけ体系化したかという本質的な解答に迫り得ない)を打破するためには、当代文化の考え方の枠組み-礼楽を基本とする儒学的世界観の通時、共時的な思考体系(個々の材料を統括し意味づける大きなロゴス)を理解することが、古典注釈に不可欠であることを確信し、最終年度に向けた成果公刊のための著書原稿の作成を進め、完稿の目途をつけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一部の注釈・校本作業は、なお課題が残るが、礼楽思想を基盤とする勅撰和歌集の和漢比較研究にあらたな知見を盛り込んだ、これまでの科研課題に係る一連の研究成果を一書にまとめた『和歌の詩学』(仮題・単著)を今年度中に刊行する目途がおおむねついた。
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Strategy for Future Research Activity |
勅撰和歌集が生み出され、それらがカノン化されてゆく背景基盤の動態的な理解のためには、日本の中・近世期における儒教(宋学を含む)の受容・変容過程における礼楽思想の古典注釈世界等における総体的な究明が不可欠との認識に至ったが、これらについては、更に新たな研究課題を設定して追求してゆくことにしたい。
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