2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520187
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Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
稲田 秀雄 山口県立大学, 国際文化学部, 教授 (80264969)
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Keywords | 狂言 / 鷺流 / 長州藩 |
Research Abstract |
平成23年度は、22年度に引き続き、山口県立大学附属郷土文学資料センター所蔵の狂言台本である江山本に収められている曲目の系統的分析を行った。 当該台本の書写時期は、江戸末期にさかのぼると推定され、長州藩時代の狂言台本として貴重な価値を有するものである。この江山本所収曲について、他の鷺流の台本及び大蔵流・和泉流等の他流の台本を網羅的に参照しつつ、要点を比較していくことで、各曲目を系統的に位置付ける作業を続行した。 所収曲17曲のうち、9曲はすでに分析済みであるので、23年度は残りの8曲を分析した。その結果、それらは基本的に鷺伝右衛門派の系統に属するものの、曲目によっては、他の伝右衛門派台本(江戸を拠点にした役者が書き残したもの)と相違する部分が見られることが判明した。具体的には、「節分」の女が鬼の腰を打つ場面、「臭」の山伏の祈り、「苞山伏」の山伏の次第の文句に、他の伝右衛門派諸本には見出せない独自の詞章や演出が認められた。22年度に分析した9曲の中にも同様の事例が見出されており、それらをまとめると、大蔵流の台本に近い例(「柑子」「八句連歌」)、鷺流のもう1つの派である鷺仁右衛門派の台本に一致する例(「蟹山伏」「苞山伏」)、鷺伝右衛門派に近いが小異がある例(「具」)、他流・他派の台本に見出されない例(「八句連歌」「千鳥」「節分」)ということになる。このような江山本独自の詞章・演出の存在は、山口鷺流(あるいは長州藩の鷺流)の狂言が、中央の鷺伝右衛門派の台本や演出を単純にそのまま移したものではなく、独自の工夫を加えた可能性があることを示唆する。 以上の分析結果を研究論文にまとめ、『山口県立大学国際文化学部紀要』18号(2012年3月)に掲載した。また、成果の一部は第48回藝能史研究會大会(特集テーマ「流動期の狂言-中世と近世をつなぐもの-」)(2011年6月5日)における研究発表「鷺流の「古態」」にも生かすことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
山口市に伝わる鷺流狂言台本のうち、長州藩時代の狂言を記載した重要な台本である江山本所収曲の分析をすべて終えることができた。このことにより、山口の鷺流狂言が基本的に鷺伝右衛門派の系統に属することが、あらためて詞章・演出の面から確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、山口市に伝存する鷺流狂言台本に収められた曲目の系統的分析を、他の鷺流の台本及び他流の台本との比較によって行う。24年度は、江山本に次いでまとまった曲目が残存する春日庄作自筆本及びその周辺の台本を中心に作業を進め、山口に現存する鷺流狂言の系統的位置付けをさらに確固たるものにしたい。
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Research Products
(3 results)