2012 Fiscal Year Annual Research Report
水戸藩と九州諸藩を中心とした近世前期における知識人の交流と出版文化の研究
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22520200
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
倉員 正江(長谷川正江) 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70307817)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国文学 / 出版文化 / 水戸藩 |
Research Abstract |
軍書の板木修訂箇所から、江戸時代における女流漢詩人の評価と享受を日本・中国・朝鮮の比較文化的視点で考察を行った。朝鮮通信使が来朝した正徳元年(1711)に、元禄16年刊『戸次軍談』は『九州諸将軍記』と改題、最終章を削除して朝鮮女流詩人李玉峰・許蘭雪の記事が新補された。この部分の典拠が漢籍『両朝平攘録』であること、豊臣秀吉の朝鮮出兵の混乱期に、朝鮮詩人の作品が明の援軍関係者を通じて中国にもたらされたこと、『九州諸将軍記』に触発され許蘭雪の漢詩集が和刻されたこと、その底本の朝鮮本は、朝鮮通信使がもたらした可能性を指摘した。 この拙稿が韓国人研究者に注目され、ソウル大学校奎章閣にて開催されたシンポジウムでパネリストとして発表する機会を与えられた。 幕府の儒臣を出し、水戸藩とも交流があった人見家代々の編纂物に『君臣言行録』がある。その冒頭には『東照宮御遺訓』貝原益軒改訂本が収められている。作者未詳の浮世草子『今川一睡記』は東山の世界に託し複数の時事的素材を織り込む。今回は『言行録』に見える徳川家光の三人の養育役の逸話と、多武峰に実在した大織冠藤原鎌足像が破裂して世間の凶事を知らせる逸話を利用していることを指摘した。作者は相応の知識人である可能性が高く、浮世草子の享受者につき再考を迫るものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果として査読誌に論文2本が掲載され、海外でのシンポジウム【英語使用】に直結した。韓国人・中国人研究者からも相応に評価されたと考えている。後者は日本大学通信制大学院総合社会情報研究科のスクーリングでも2回扱った。 また1年ほど遅滞したが、平成22年に中華民国台湾大学にて行った朱舜水に関するシンポジウムで発表した内容が、中国語に訳され図書として台湾にて刊行された。これを内外の研究者に配布したところ、概ね好評であった。東アジアの学術・文化交流に多少なりとも貢献できているという自負がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今年は水戸藩の編纂書についての論考が発表できなかったが、CD-ROM版『和歌文学大辞典』の項目執筆で、光圀の和歌や村上吉子ら水戸の歌人について調べることを余儀なくされた。専業歌人でない者も多いため、彰考館員周辺の和歌は漢詩文以上に等閑視されている。しかし和歌を通じた京都の公家歌人との交流も、従来考えられていた以上に盛んであることがわかった。今後は和歌・和文も視野に入れた研究を心がけ、水戸藩を中心にさらに人物研究をも進め、知識人のネットワーク形成の実態に迫りたい。 『今川一睡記』は浮世草子中の異色作であり、作者を特定しかねているのは残念である。当時は写本でしかあり得ない将軍家関係の伝記類を参照しているところから、写本の記録類についても今後とも収集に努めたい。
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Research Products
(3 results)