2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520214
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
廣川 晶輝 甲南大学, 文学部, 教授 (40312326)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 万葉集 / 墓 / 日中文化交流 / 墓誌 / 伝説 / 高橋虫麻呂 / 田辺福麻呂 / 大伴家持 |
Research Abstract |
研究代表者廣川晶輝は、墓自体が持つ、顕示・アピールの機能、「偲び」の回路を開き得る機制の分析において成果を上げた(平成19~21年度科学研究費補助金交付)。この成果を基盤とする本研究課題においては、「墓誌」が生前の偉業等を称揚する目的上、上記墓の機能・機制を最も顕著に発揚する極めて実体的な存在である点を考慮し、墓誌の表現を分析するに至った。廣川晶輝は、中国出土墓誌の表現分析が日中文化交流に寄与する新説をすでに明らかにしている。また、中国山西省太原市文物考古研究所の李非所長の報告を参照すれば、日中文化研究における墓の重要性も明瞭である。廣川晶輝は、こうした研究状況に鑑み、中国出土墓誌に見られる表現が日本上代文学の表現に与えている影響について解明し、日中文化交流の従来指摘されてこなかった道筋を明白にする本研究課題を着想した。本研究課題の目的完遂のため、本研究は次の二つの基軸を備える。 1.中国出土墓誌の第一次資料・史料のデータベース化、および活用。 2.墓の上記機能・機制の追究のための、墓・古墳の実地研究踏査の実施。 1.の実施の成果として、中国各地で発見された墓誌を収める『石刻史料叢書』のテキストファイル化・データベース化があり、『同』甲編之14収載の墓誌の文言のテキストファイル化・データベース化を実施した。稀書である同書による研究を進展させ広く世に資することの意義は大きい。2.の実施の成果として、「八幡観音塚古墳」(群馬県高崎市)の実地踏査研究がある。この古墳の玄室天井部の推定重量55tの巨石は、古墳南側を流れる碓氷川の7㎞ほど上流の地域から運ばれたものである点、古墳の舟運への示威効果に関する調査研究をおこなえたことは意義深い。この古墳を碓氷川河畔から見ることができることを確認できたことは、「墓・古墳の顕示・アピール性」を明瞭に確かめることが出来た点で、極めて有益であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の「研究目的」欄に示したとおり、中国出土墓誌に見られる表現が日本上代文学の表現に与えている影響についてすでに解明し、日中文化交流研究の従来指摘されてこなかった道筋を明白にしつつあるから。 また、墓・古墳の実地研究踏査を綿密におこなうことをとおして、「墓・古墳の顕示・アピール性」を明瞭に確かめることが出来ているから。 さらに、研究に基づく成果を一般の方々に対して報告・解説することの努力を惜しまずに、実施し、科学研究費補助金交付の成果を国民の方々へと還元する目的を大いに果たしているから。
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Strategy for Future Research Activity |
中国出土墓誌に見られる表現が日本上代文学の表現に与えている影響について解明し、日中文化交流の従来指摘されてこなかった道筋を明白にするという本研究課題を推進すべく、文部科学省に申請し既に整備できている中国出土墓誌研究の良好な環境を活用する。『石刻史料叢書』に収載される墓誌の文言のテキストファイル化・データベース化を推進し世に資する。データベース化した情報を、山上憶良作の長大な漢文「沈痾自哀文」(『万葉集』巻五)の表現の出典考証研究に活用し、日中文化交流の研究を推進する。 また、幹線道や航路の近くに築造された墓・古墳への実地研究踏査を推し進め、墓・古墳が有する機能・機制への理解を推し進める。次年度は、古代東山道という幹線道の近くに築造されていた「梁瀬二子塚古墳」(群馬県西部最大規模の前方後円墳。群馬県安中市指定史跡)の幹線道の交通への示威・アピール性についての考察を、実地研究踏査を綿密におこなうことをとおして推進する。この実地研究踏査においては、具体的な方策を得ている。すなわち、木下良氏「古代道路の遺構」(『古代を考える 古代道路』、1996年4月、吉川弘文館)において、古代東山道の道路痕跡が、群馬県安中市上野尻字並木と同市高別当字甲矢頭との境界付近に明瞭に存すると指摘されており、同論文の指摘する幅約15メートルの地条帯についての実地研究踏査を綿密におこなうことは、古代東山道のコース比定に資するばかりでなく、以下のことがらがきわめて重要と思案されるからである。すなわち、その古代東山道の道路痕跡を西方向に延ばしていくと、上記梁瀬二子塚古墳のすぐ横を通ることとなる。つまり、古代幹線道路の交通に対する古墳のアピール性の解明に道が開かれることとなるのである。 今後も、研究者の他にも一般の方々への報告と解説に努め、科学研究費補助金交付の成果を広く国民の方々へ還元する目的を大いに果たす。
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