2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520223
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大河内 昌 東北大学, 大学院・文学研究科, 教授 (60194114)
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Keywords | 感傷主義 / 共感 / 美学 / 道徳哲学 / 感傷小説 / イデオロギー / 政治経済学 / 崇高 |
Research Abstract |
平成23年度においては、ゴシック小説における「感傷主義」の射程を研究した。分析の対象としてとくに取り上げたのはメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』とアン・ラドクリフの『ユドルフォの謎』である。これらのテクストを中心に、ゴシック小説が喚起する「恐怖」という感情の性質とイデオロギー的な意味を、思想史的・文化史的な文脈の中で考察した。『フランケンシュタイン』においては、「崇高」という概念が重要な意味をもつが、このテクストにおける崇高性の意味を、エドマンド・バークの『崇高と美の起源』を比較することで解明した。また、『ユドルフォの謎』においては、絵画というテーマが重要な意味をもつが、18世紀の風景論・絵画論であるピクチャレスクの問題と『ユドルフォの謎』に登場する多くの絵画の問題を関連づけて分析することで、ゴシック小説が喚起する「恐怖」の感情と絵画的空間表象の問題が深く関連していることを解明した。これらの分析作業をとおして、強い感情を喚起するゴシック小説という文学ジャンルと、視覚的対象が喚起する美的な感情・情緒を対象とする「崇高」や「ピクチャレスク」が、深層的なレベルで深く連関していることを解明できたと考える。それは、文学における「感傷主義」が、絵画論や美学思想の問題とも通底していることを意味する。ちなみに、『フランケンシュタイン』の分析を公表した論文は、平成23年度の日本英文学会の「優秀論文賞」を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は「感傷主義」のもつイデオロギー的な意味を、狭義の文学テクストと幅広い文化的テクストを横断的に分析することで、「感傷主義」の射程に関する研究を、当初の予定通り進展させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは、感傷小説という文学ジャンルとピクチャレスクや崇高といった美学的な言説を中心に「感傷主義」の分析を進めてきたが、今後は、「感傷主義」に関するより理論的・原理的な側面をより深く分析してゆきたい。とくに、18世紀イギリスのデイヴィッド・ヒュームのテクストの分析を進めてゆく。それによって、感傷主義の文学的・文化的な現れに関する研究と、感傷主義の哲学的・原理的な側面に関する研究を、総合的に深化させることができるはずである。
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