2012 Fiscal Year Annual Research Report
モダニズム文学における身体と人間関係の機械化に関する研究
Project/Area Number |
22520228
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田尻 芳樹 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (20251746)
|
Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | モダニズム / 機械化 / 疑似カップル / ベケット / ウィンダム・ルイス |
Research Abstract |
平成24年度は5年計画の3年目に当たり、モダニズムにおける人間関係の機械化の最も重要な形象と言える「疑似カップル」('pseudocouple')に関して研究を深めた。まず、4月28日に英国レディング大学で開催されたBeckett International Foundation Research Seminar において“Rethinking the Pseudocouple; Comedy, Mechanization and Nihilism”という研究発表を行った。ギュスターヴ・フローベールの『ブヴァールとペキュシェ』、ウィンダム・ルイスの『チルダマス』、サミュエル・ベケットの『メルシエとカミエ』、『ゴドーを待ちながら』などの機械的で平板な二人組(すなわち「疑似カップル」)を、まずそれらが伝統的な道化二人組の変奏であること、それらが20世紀に入ってから映画などのテクノロジーによって文字通りの機械化をこうむったこと、さらにフローベールにおいて顕著になり始めた小説の可能性の消尽と関連するニヒリスティックなヴィジョンと連関すること、を指摘しながら分析し、「疑似カップル」論の基礎的な枠組みを固めることができた。この発表のうち、ルイスとベケットを論じた部分は 'Wyndham Lewis's 'Pseudocouple': The Childermas as a Precursor of Waiting for Godot' と題した論文に書き直した(近刊予定)。そのほか『メルシエとカミエ』に関して、特にそのセクシュアリティを分析した論文を執筆した。9月にはトリニティ・カレッジ・ダブリン図書館およびレディング大学ベケット文書館においてベケットの草稿について調査を行った。総じて、1冊の書物にまとめるための全体的な枠組みが見えるようになったことが収穫である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の研究業績概要に記したように、喜劇、機械化、ニヒリズムの3要素が、「疑似カップル」という形象を出現させたコンテクストにあることを解明できた点で、研究の枠組みの基礎を固めることができたと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
1冊の書物として研究成果を公刊することを考えた場合、まだまだ足りない部分が多い。たとえば「疑似カップル」におけるセクシュアリティの問題は手を付け始めたばかりである。また、ウィンダム・ルイスやサミュエル・ベケットのような鍵になる作家の作品について、具体的に詳しく論じる作業がまだ足りないと感じている。今後は、そのまま書物の一部とすることを念頭に置きつつ、論文を書きためていくことを心掛ける所存である。
|
Research Products
(1 results)