2013 Fiscal Year Annual Research Report
モダニズム文学における身体と人間関係の機械化に関する研究
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22520228
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田尻 芳樹 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (20251746)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | モダニズム / 機械 / 身体 |
Research Abstract |
サミュエル・ベケットを中心にモダニズム文学における特殊な二人組の形象「疑似カップル」(pseudocouple)について引き続き研究を行った。25年度においては次の二つの点において成果を上げた。 1)「疑似カップル」のセクシュアリティ フレドリック・ジェイムソンは「疑似カップルは常に男性二人組であると述べている。なぜそうなのか考える過程で、イヴ・セジウィックが唱えた西洋近代におけるホモソーシャリティの概念が有効であることに気付いた。つまり非常に親密だが同性愛には至らない形をとる疑似カップルは、女性嫌悪を特徴としている点でホモソーシャリティの具体的な表れではないかと考えた。そのことを19世紀の喜劇『ボックスとコックス』、フローベール『ブヴァールとペキュシェ』を題材にしながら具体的に論じ、さらにベケットの『メルシエとカミエ』がどのような偏差をもたらしているかを論じた研究発表を4月、5月にオックスフォード大学、およびブリストル大学で行った。この発表はまだ活字にしていないが、より洗練させて論文の形で世に出す予定である。 2)ジョウゼフ・コンラッド「文明の前哨地点」 19世紀末から20世紀初めにかけて活躍したコンラッドの作品は、分身の形象が20世紀において変容する様をウィンダム・ルイスとともに興味深く表している。その中でも短編「文明の前哨地点」はフローベールを意識した「疑似カップル」を登場させながらも、部分的に分身の文学と読み得る側面を持つ両義的な作品である。この作品について、「疑似カップル」と分身がどのように交錯しているのかを分析した論文を完成した。これも未発表だが、いずれ活字にする予定である。 また本年度はベケットにおける人間の機械化と精神医学について精力的に研究を行っているブリストル大学のウルリカ・モード氏を10月に招へいした資金の一部に当研究費を使用したことも付記しておく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度は5年間の研究計画の4年目に相当したが、上記のように二つの点で目に見える成果を上げ、またそれら二つは全体の研究の必要不可欠な部分なので、おおむね順調であると判断している。またイギリスの二つの大学で研究発表を行い、本場の専門研究者から有益なフィードバックを得たことも研究の進展に寄与したと考え満足している。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は最終年度である。したがって本研究の根幹である「疑似カップル」形象の研究においてまだ欠けている部分を補う必要がある。具体的に言えば、オスカー・ワイルドの喜劇『真面目が肝心』における疑似カップルと『ドリアン・グレイの画像』の分身の関係、ウィンダム・ルイスとサミュエル・ベケットに与えた喜劇映画の影響(とりわけチャップリン)、ベケットの二人組の起源(道化二人組の系譜)と変容などである。しかし、それぞれの点についてはすでに基礎的な研究は終えているので、あとは、今まで通りまとまった部分を口頭発表したり論文として発表したりしながら辛抱強く発展させ、「疑似カップル」を中心としたモダニズムにおける人間関係の機械化についての1冊の書物を刊行できるように全体をまとめていくのみであると考える。
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