2010 Fiscal Year Annual Research Report
西洋文化圏における「凝視」と「注意」の文化史的意義の研究
Project/Area Number |
22520231
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
阿部 公彦 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 准教授 (30242077)
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Keywords | 英文学 / 美術 / 英語 / 凝視 / 西洋文化 |
Research Abstract |
本年度の当研究の成果は、2009年から2011年まで15回に渡って『文學界』に掲載された「凝視の作法」という連載を中心に公表することができた。この連載では、「なぜ人は頼まれてもいないのに対象をじって見つめるのか?」という素朴な疑問を出発点に、「凝視」という目の働かせ方が人間の文化の中でどのように機能しているか、そして文化の根底に「凝視的なもの」があることで、逆に文化の形がどのように規定されてきたかといったことを、絵画、文学のみならず、出版活動や選挙制度といったより広い領域にまで広げて考察している。とくに選挙制度と近代の抒情詩との関係を調査研究してみると、しばしば別物としてとらえられることが多い政治と文学というふたつの領域が、凝視特有の錯覚に根ざしたきわめて近似した思考回路のもとで「行為されている」ということがわかり興味深い。また本年度の研究で大きな力点を置いた今ひとつのテーマは、「注意散漫」の問題でもある。太宰治をはじめとする文学テクストの考察を通し、本研究では「凝視」の現代的な形として注目を浴びつつある「注意」(attention)という人間の活動に焦点をあて、それがいかに「注意散漫」という相対立するかのような要素と相補的になることで人間の意識を形成しているかを明らかにした。意識とはつねに対象を目の前にとらえ続けている状態ではなく、むしろはっと何事かに気づくことこそが、意識という現象の重要な一部となっているということが、太宰治の「富嶽百景」のような作品を丁寧に読んでいくと見えてくる。そこでは視線を逸らした後に何事かを発見するという方法が物語を前に進めるための重要な契機となっているのである。
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