2010 Fiscal Year Annual Research Report
ジョージ・エリオット後期小説研究:インターテクスチュアリティの実証的研究
Project/Area Number |
22520246
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
福永 信哲 岡山大学, 大学院・教育学研究科, 教授 (50116498)
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Keywords | 聖書 / 聖書批評 / 心の科学 / 生理学・心理学 / 文体論 / テクスト分析 / インターテクチュアリティ |
Research Abstract |
1本研究の内容は、ジョージ・エリオットの後期小説たるFelix Holt the Radical, Middlemarch, Daniel Derondaの原文テクストを実証的に分析することにある。原文の姿・形、音楽性、意味の連想、言葉の相照らしあい、語源、修辞(アイロニー、比喩など)を熟読によって明らかにすることがテクスト分析の要になる。文学作品は、作家が生きた時代と文化を多層的に反映している。言い換えれば、作品にはこれを形作った社会の、過去から現代に至る歴史の流れが伏流している。エリオットが福音主義的キリスト教から歴史主義的聖書批評(聖書を神の超越的真理の表れとみる見方を否定し、人類の体験と記憶を湛えた備忘録とみる視座の転換)へと心の軌跡を辿ったことは、彼女の小説言語を分析すると見えてくる。 2平成22年度は、テクスト分析の基礎作業となる作家の精神遍歴を振り返った。これと同時に、イギリスで一次資料(エリオット訳英語版Ethics、伴侶ジョージ・ヘンリー・ルイスの生理学・心理学研究文献など)を集め、実証的な裏づけの基盤を整えた。年度後半は、作品を講読する一方で、チャールズ・ダーウィン、トーマス・ハックスリーの科学的世界観と方法を辿り、エリオットが彼らから受けた影響を探った。また、ルイスとの共同研究たる医学・生理学の知見が小説テクスト、特にMiddlemarchに反映していることを確かめた。 3小説テクストを読んで明らかになったことは、作家が正統派キリスト教を捨てた後にも、聖書の言葉と創造主を畏れ敬う心は作家の人間観に息づいていることであった。宗教的魂が聖書の道理を、神話と生理学・心理学の言葉で裏づけようとする、その営みが作品に結実していることが見えてきた。平成23年はじめに当たって、これを論述する試みが視野に入ってきた。
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Research Products
(1 results)