Research Abstract |
平成22年度については,研究実施計画に基づきながら,これまでの研究との継続性を念頭に置いて,成果としては論文の形で公表するとともに,研究基盤の整備を重点的に行った。論文としては,これまで継続しているひとつのテーマに沿って,連載的な形で個別の作品を分析するとともに,研究計画に示した3つの柱,すなわち,1)時間構造構築と語りの技法の解明,2)モダニズムの観点から見た技法の分析,3)文体論の立場からの分析と体系化,を作品の分析と論考に反映させることができた。取り上げた作品は,男女の根本的な繋がり,性を基盤とする結婚という形に関して,いわゆるハーディ的な皮肉と,重層的でイメージ豊かな,そしてインターテクスチュアルな側面を有していることを指摘しつつ,ハーディの実験的で野心的な試みについて考察を加えることができた。また,作品の分析と考察,特に「物語」についての認識と,小説の技法の分析が,教育現場にも十分に生かせることを示して,ハーディの作品が持つ潜在的な可能性を指摘することができた。こうした点では,これまで取り組んできたテーマを,研究実施計画に示した方向につなげて,ハーディの,これまであまり評価されていなかった短篇作品について,新たな知見を加え,同時に,新たな研究の可能性を示唆することができたと思われる。 平成22年度は,所属している研究組織が改修の対象となって2度の移転を余儀なくされたため,調査研究のための旅行は時期的な問題が重なり十分な成果が得られない可能性が大きかったので,実施計画にも予定していた研究のための基盤づくりに重点を移した。その点では,平成23年度以降に,余裕を持って効果的な調査研究のための旅行が可能となり,一定の成果をあげることができると思われる。
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