2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520251
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
太田 一昭 九州大学, 大学院・言語文化研究院, 教授 (10123803)
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Keywords | エリザベス朝 / 英国ルネサンス / 戯曲 / 出版 / ロンドン書籍商組合 / 版権 / 出版登録 / シェイクスピア |
Research Abstract |
1.シェイクスピア学会において、論考「ロンドン書籍商組合記録の『登録』とは何か」を口頭発表した。骨子は、次の通りである。組合記録簿への出版登録は、書籍商が自分たちの書籍の所有権を証明する、「一般的なもっとも強力な証拠」であった。組合記録簿への登録によって、版権が確立したのである。しかし「登録」の中には、その意味が曖昧なものがある。例えば、宮内大臣一座の演目4作品に関する1600年8月4日の"staying entry"。これは、4作品の出版阻止の「登録」でも出版を禁止したことの記録でもない。それはまた、4作品についての仮登録でもない。それはおそらく、これらの劇の登録申請がなされたものの、なんらかの理由で登録が保留されたことを伝える覚え書きにすぎない。 2.論考「シェイクスピアと戯曲本の出版」を刊行した。本論考の中で、国王一座の座員の了解なしに一座の演目を印刷することを禁ずる宮内大臣通達(1619年5月3日)について言及し、次のように指摘した。国王一座は宮内大臣の力を借りて劇団所有の戯曲の無断出版を防ごうとしたが、一座が宮内大臣という宮廷有力者の力を借りたのは、当時の版権は書籍商の権利を保護するものであって、著者(劇作家)や劇団の権利を守るものではなかったからかもしれないと指摘した。 3.博士論文『英国ルネサンス演劇統制史研究-検閲と庇護-』を執筆した(2010年9月九州大学に提出、同年12月学位授与)。16-17世紀イングランドの演劇、反逆罪や煽動罪を規定する布令に加えて、祝典局長の検閲による統制を受けた。この時代の演劇統制は、政治的・社会的に不適当な演劇活動に掣肘を加えるだけでなく、俳優の活動に一定の保護を与えるという側面をもっていた。本論文は、その統制のありようを論じたものである。第1部「英国ルネサンス期の演劇統制」(第1章~第5章)と第2部「シェイクスピアと検閲」(第6章~第9章)から構成される。第5章で、上記シェイクスピア学会発表論文において考察した、戯曲本の版権の問題を扱っている。
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