2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22520251
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
太田 一昭 九州大学, 大学院・言語文化研究院, 教授 (10123803)
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Keywords | 戯曲 / 版権 / 統制史 / 検閲と庇護 / ロンドン書籍商組合 / 英国ルネサンス / エリザベス朝 / シェイクスピア |
Research Abstract |
科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の助成を受けて、著書『英国ルネサンス演劇統制史-検閲と庇護-』を刊行した。本書において筆者は、16-17世紀イングランドの演劇統制のありようを歴史的・実証的に跡づけ、この時代の演劇統制システムは、後代の演劇統制とは異なり、政治的・社会的に不適当な演劇活動に掣肘を加えるだけでなく、俳優の活動に一定の保護を与えるという側面をもっていたと論じた。 本研究の成果は、本書第5章の「無登録出版、出版登録、版権」のセクション(193-200頁)と、第7章の「ペイヴィアの四つ折本」と『リア王』四つ折本との係わりを論じたセクション(243-45頁)に取り込んでいる。前者においては、ロンドン書籍商組合記録への出版登録と版権成立の関係について、次のように論じた。出版者(書籍商)は、書籍を出版することによってその書籍に対する権利(版権)を獲得することができたが、出版によって版権を「確保」することができたかは疑わしい。許可を得て印刷するだけではおそらく、絶対的な保証は得られなかった。版権所有の確証となるのは、書籍商組合記録簿への登録であった。後者においては、以下のように指摘した。1619年、8篇のシェイクスピアの四つ折本が、2篇のシェイクスピア外典とともに出版された。これは「ペイヴィアの四つ折本」として知られる作品群だが、そのほとんどのタイトル・ページには、虚偽の出版年、出版者・印刷者名が印刷されている。虚偽の出版年、出版者名・印刷者情報が印刷された理由として、同年5月に書籍商組合に送られた、国王一座所有の戯曲を一座の承諾を得ずに印刷することを禁止する、宮内大臣通達が係わっている可能性を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、16-17世紀の戯曲の版権に関する個別の論考を著す計画であったが、研究書『英国ルネサンス演劇統制史』の刊行を優先したために、平成23年度に出版を計画していた論考を完成することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度に刊行を計画していた、現在草稿段階の論考「1600年8月4日の"staying entry"はいかに解釈すべきか-ロンドン書籍商組合記録再考-」(仮題)を完成させ、併せて、論考「2つの異本の意味するもの-Romeo and Julier、Henry V、 Hamletの不良本と善良本」(仮題)を執筆し、24年度末までに16-17世紀イングランドにおける戯曲の版権に関する筆者の見解をまとめる予定である。
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