2010 Fiscal Year Annual Research Report
男性ホモソーシャリティとジェンダー支配を近代から現代に辿るトマス・ハーディ研究
Project/Area Number |
22520256
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
亀澤 美由紀 首都大学東京, 准教授 (60279635)
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Keywords | ホモソーシリテ / ジェンダー / リアリズム |
Research Abstract |
本研究は、トマス・バーディの小説を男性ホモソーシャリティの観点から分析することにより、近代がホモフォビックな視線のもとにジェンダーを構築し、それと相補的にナショナル・アイデンティティの形成や階級制度・結婚制度の補強がなされてきた事実を明るみにすることを目的としている。そのうち平成22年度は、『日陰者ジュード』に焦点をあてて分析を行った。『ジュード』はバーディの作品中もっとも反ブルジョワ的でありかつモダニズム的な文学であると評される。が同時に、これをバーディのなかでもっともリアリズムに徹した作品であるとする見方も強く存在する。反ブルジョワ的とされる物語内容と、文学様式の矛盾(リアリズムvsモダニズム)との奇妙な組み合わせを分析の足掛かりとして研究を進めた結果、この小説はリアリズムというブルジョワ的な文学様式をまといつつ、実はその内側から、リアリズムに潜む矛盾を突くかたちでその堅牢にみえるブルジョワ的文学様式および価値観を破壊しているのだという事実をあからさまにすることができた。この研究の意義は、第一にスーの女性性に関心が向けられることの多かった『ジュード』批評を、男性性分析の観点から、しかもそれを語りの様式と絡めて、考察しようとした点にある。第二の意義は、『ジュード』という一作家の一作品に関する分析批評をとおして、従来の二項対立的な文学価値観-リアリズムvsモダニズム-をあらためて疑問に付し、それに批判を加えた点にあり、その意味において重要な分析結果を得られたと考える。
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