2011 Fiscal Year Annual Research Report
移動/定住/家族ーー21世紀に向けてフォークナー文学を拓く
Project/Area Number |
22520257
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
田中 敬子 名古屋市立大学, 大学院・人間文化研究科, 教授 (70197440)
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Keywords | 英米文学 / フォークナー / 父権社会 / 越境 |
Research Abstract |
本研究は、ウィリアム・フォークナーの後期小説を中心に、共同体定住者と放浪者、異端者の緊張関係から、彼の文学における越境の意味、伝統的な家族像の変化の可能性を探ろうとするものである。平成23年度は、『尼僧への鎮魂歌』(1951年)を取り上げ、1950年ノーベル賞受賞前後の作者を取り巻く社会の考察から前期作品の傑作といわれる『響きと怒り』のその後を描いた「付録」(1946年)との関係までを明らかにした。『尼僧への鎮魂歌』では父権社会とヒロインの対立、白人女性主人公と共同体の異端者であった黒人家政婦の関係を論じた。さらに『響きと怒り』のヒロインが、「付録」では故郷アメリカ南部を遠く離れてナチス将校の愛人となっている運命と、『尼僧への鎮魂歌』のヒロインの将来が極めて不透明であることを比較し、南部父権社会と全体主義国家に共通する人種とジェンダーの規制、そこからの逃走、越境の可能性を論じた。この論考は、2011年11月シドニーでCenter for Modernism Studiesin Australia主催で開催された学会Faulkner in the Media Ecologyにて発表した。学会発表後、『尼僧への鎮魂歌』というテクストの劇と散文の混淆というジャンルの越境、さらに1930年代から40年代半ばまでの、アメリカ合衆国政府が恐慌に対してとった政策の一つである国家的芸術プロジェクトに対するフォークナーの反発の意味を補強して考察し、論文として発表予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は『尼僧への鎮魂歌』を中心に考察する、という予定の通り、研究テーマに沿って国際学会で研究発表できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は本研究3年目の締めくくりの年であり、フォークナーの小説の南部白人家族の有りように対して、黒人家族の放浪と定住の意味をより明らかにする予定である。白人登場人物がグローバルなスケールで放浪しているように見えるのに対し、黒人たちの放浪はアメリカ合衆国内にとどまるように見えるが、もともとアフリカから奴隷としてつれてこられた彼らの旅が、より歴史的、聖書的な意味を付されていることについて考察する予定である。
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