2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520258
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
金澤 哲 京都府立大学, 文学部, 教授 (70233848)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柏原 和子 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (90330216)
石塚 則子 同志社大学, 文学部, 教授 (80257790)
塚田 幸光 関西学院大学, 法学部, 教授 (40513908)
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Keywords | ジェンダー / 老い / エイジング |
Research Abstract |
本研究はアメリカ文学研究において注目されることの少なかった「老い」と作家/作品の関係を分析し、「老い」と社会の間に働く力学についての研究=「老い」の政治学を確立しようとするものである。本年は基礎的作業として、いわゆる「キャノン」に属する作家をとりあげ、それぞれの晩年作を分析することで、「老い」の政治学の多様な発現の仕方を明らかにすることができた。 まず金澤はフォークナー晩年の問題作『寓話』中の1エピソードを詳細に分析し、そこで(1)「男らしさ」と金銭および人種が分かちがたく結びついていること、(2)その関連性は暴力によって支えられていること、を明らかにした。本論文はさらに「老い」とジェンダー・金銭・人種の一体構造の関係を問い、「老い」へのおびえがそれらの構造を裏から支える暴力性と通底していることを明らかにした。 石塚は、晩年のイーディス・ウォートンが過去を新しい時代の中で表現するために取った戦略を検証し、それを「離散者」のものであると定義づけ、「老い」と創作者の新たな関係を明らかにした。 柏原は学会発表"Accepting Aging in an Ageist Society : "Aging" in John Updike's Fiction from Rabbit, Run to the Later Short Stories"において、アプダイクの晩年作における「老い」の描写と20世紀末から21世紀にいたるアメリカ社会の「老い」を関連づけたものであり、「若さの国」アメリカが隠蔽し続けてきた影の部分を照射するリアリズム文学の可能性を提示した。 塚田は映画およびヘミングウェイに関するいくつもの論考を通して、対象を征服するアメリカ的視線によっては捉えられない外部領域としての「老い」の存在を明らかにし、映画と文学を横断的につなぐ新たな「視線の政治学」の可能性を示唆するものとして「老い」を捉え直した。 以上の研究により、「老い」の政治学確立のための基盤作りが一定なされたと見なすことができる。
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Research Products
(10 results)