2011 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀英国の文学と大衆ジャーナリズムにおける移民文化受容と英国性の変容
Project/Area Number |
22520260
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
田中 孝信 大阪市立大学, 大学院・文学研究科, 教授 (20171770)
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Keywords | 19世紀英文学 / 大衆ジャーナリズム / イースト・エンド / 中国移民 / 国民国家 / 帝国主義 / アヘン / 英国性 |
Research Abstract |
19世紀イギリスの文学と大衆ジャーナリズムに見られる移民表象を探るにあたって本年度は、ロンドンに流入したアジア系移民、特に中国人と彼らの生活に対する社会の反応を明らかにすることを目的とした。そこから得られた知見としてまず言えることは、人種的優越意識、そしてそれと表裏一体を成す逆侵略の恐怖をイギリス人は中国人に対して抱いていたということだ。18世紀に見られたユートピア的存在としての中国像は、19世紀になると、進歩的なヨーロッパに対する停滞した中国という軽蔑的なイメージに取って変わられる。しかし、こうした優越感は大英帝国の中心に「異質なもの」としての中国移民が共同体を形成するにつれて、イギリス人の中に中国人化の恐怖を引き起こす。それが典型的に表れているのがアヘン吸飲の場面である。ディケンズに始まって、ドレ、グリーンウッド、ワイルド、ドイルたちは上・中流階級男性の堕落・退化を描写する。アヘンはイースト・エンドにとどまらず、上・中流階級の家庭にも様々な形で浸透する。そうした恐怖心は黄禍論となって排斥運動にまで発展する。サックス・ローマーは悪人フー・マンチューを主人公とした一連の小説で人気を博する。ただ同時期にトマス・バークが、『ライムライトの夜』で中国人を必ずしも悪ではなく、逆にイギリス人の卑劣さをも浮き彫りにした点は注目に値する。このように様々な形で中国移民が活字媒体を通して表象されたということは、彼らへの関心の高さを窺わせる。社会的に排除され忌避される他者でありながら、彼らはイギリス人が抑圧する欲望を投影した、心理的には必要不可欠な存在でもあるのだ。そこから「嫌悪の魅力」が生じる。それに埋没することはアイデンティティの危機を伴うが、同時に新たなエネルギーを生み出し、秩序の再構築をもたらす可能性を秘めているのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
所属研究機関における校務多忙のため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度にあたる平成24年度は、研究成果報告書の作成に向けてのまとめの時期と位置づける。同時に平成22年度および23年度の研究の遅れに関しても年度前半にできるだけ取り戻すようにする。
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Research Products
(1 results)