2012 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀英国の文学と大衆ジャーナリズムにおける移民文化受容と英国性の変容
Project/Area Number |
22520260
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
田中 孝信 大阪市立大学, 文学研究科, 教授 (20171770)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2013-03-31
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Keywords | 19世紀英文学 / 大衆ジャーナリズム / イーストエンド / 東欧ユダヤ移民 / 中国移民 / 国民国家 / 帝国主義 / 英国性 |
Research Abstract |
本研究は、植民地獲得競争と国民国家形成の時代にあった19世紀イギリスにおいて、文学と大衆ジャーナリズムがヨーロッパ大陸や大英帝国からの移民や彼らの文化をどのように表象しているかを分析することで、移民文化の排斥と受容の変遷を探ることを目的とする。最終年度に当たる本年度は、平成22年度以降の資料収集・調査に基づく分析結果を踏まえ、まとめの時期として位置づけられる。 特に注目すべきは、中心世界が移民や彼らの文化に対して軽蔑や恐怖を抱くと同時に、彼らの生活に自分たちと同じ価値観を見出したり、自分たちが潜め持つ欲望を彼らに投影しているという点である。ユダヤ人の政界進出を最終的に受容する一方で、世紀末における東欧ユダヤ移民に対しては、彼らの貧困や不潔さゆえに犯罪と結び付け排斥しようとする。その典型的な例が「切り裂きジャック」事件である。しかしブースの『ロンドンにおける民衆の生活と労働』に興味深く示されているように、彼らはイギリスの労働者以上に中産階級が尊ぶ価値観を体現しているのである。また、ユダヤ人同様自分たちだけの共同体を形成する中国移民は、阿片吸引によるイギリス人の退化への恐怖と相俟って、黄禍論をも引き起こすことになるのだが、その反面、バークの『ライムハウスの夜』に描かれたような中国人とイギリス人との融合が日常的な出来事となる。移民に対するこのような両義的な態度は、両者の境界を曖昧にし、英国性が混淆性を帯びる動きを加速するのである。この傾向は20世紀になって、バングラデシュや西インド諸島といった旧植民地から多くの移民が押し寄せて来るにつれてますます強まる。それは従来のアイデンティティにとっては危機的状況と言えるが、同時に新たなエネルギーを生み出し、秩序の再構築をもたらす可能性を秘めているのである。以上のような観点から研究成果報告書を作成し、それをもとに著書の刊行を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Reason
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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Research Products
(2 results)