2010 Fiscal Year Annual Research Report
英国歴史小説の歴史化―啓蒙・ロマン主義時代の交渉とポストモダンの応答をふまえて
Project/Area Number |
22520264
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Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
松井 優子 駿河台大学, 現代文化学部, 教授 (70265445)
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Keywords | 英米文学 / 文学論 / 西洋史 |
Research Abstract |
本研究は、20世紀末から21世紀初めにかけてのポストモダン歴史小説が提示する小説作法や先行作品への応答をふまえ、新歴史主義的観点から啓蒙・ロマン主義時代の英国歴史小説の同時代性や過去と現在の関係性の構築のありように注目するものである。これに基づき、今年度は、まず、W.スコット、C.I.ジョンストンの作品との比較のうえで、同時代のアイルランドの作家マライア・エッジワースやシドニー・オウェンスンらによる「ナショナル・テイル」と歴史小説との連携について、ネイション内部の差異や周辺地域との連携を軸とした(多民族的な)歴史的共同体の構築について考察し、2010年9月にはスコットランド国立図書館にて資料の調査、収集をおこなった。特に、アイルランドとも共通性をもつハイランド地方のゲールの伝統の近代ブリテンや帝国への歴史的、空間的組み入れが、この時代の小説に複数かつ包括的、ないし俯瞰的な視座をもたらす過程について分析を進め、その結果の一部を2010年10月に開催されたIASIL Japanの大会で報告するとともに、現在、これを論文にまとめているところである。あわせて、A.グレイ『哀れなるものたち』、A.クルーミー『ミスター・ミー』、J.ロバートスン『ジョセブ・ナイト』らポストモダン的とされる現代歴史小説における語りの構造を検討し、これらと『ウェイヴァリー』をはじめとするスコットの「ウェイヴァリー叢書」、特にその枠物語における読者共同体の構築や過去と現在の関係性の提示との比較検討を進めた。この際、これら枠物語や作家自身の「序」における「ライフ・ライティング」的な要素に注目しながら、この要素とこの時代の作家像の形成や小説の地位の変化との関係についても考察を進め、翌年度の研究会で予定されている報告の基礎作業とした。
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Research Products
(1 results)