2011 Fiscal Year Annual Research Report
英国歴史小説の歴史化―啓蒙・ロマン主義時代の交渉とポストモダンの応答をふまえて
Project/Area Number |
22520264
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
松井 優子 青山学院大学, 文学部, 教授 (70265445)
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Keywords | 英米文学 / 文学論 / 西洋史 / ケルト |
Research Abstract |
本研究は、ポストモダン歴史小説が提示する小説作法や先行作品への応答に鑑みつつ、新歴史主義的観点から啓蒙・ロマン主義時代の英国歴史小説の同時代性や過去と現在の関係性の構築に注目するものである。これに基づき、今年度は、前年度より引き続いて、隣接領域としてのナショナル・テイルと歴史小説との比較を進め、C.I.ジョンストンによる前者の代表作とウォルター・スコットの作品とを、特にそのネイションや帝国内部の差異とそれらの時間的・空間的配置、同時代の小説における包括的ないし俯瞰的視座の招来の可能性という点から考察し、その結果を、"British identities in Scottish and Irish contexts in early nineteenth-century fiction"という特集の一部として論文にまとめた。あわせて、スコットの歴史小説『ミドロージャンの心臓』(1818)について、ヴィクトリア時代や現代における同作品の受容にも触れながら、作品の後半部を再評価する作業を通じて、作品の構造や枠物語、作者/語り手の特徴と、その「歴史小説」的語りや作品の複数の解釈への関与について分析を進めた。その一部について2011年7月に開催された国際スコット会議にて発表するとともに、複数のワークショップに参加し、スコットの複数の視点や多角的な表象のありようについて重要な示唆を得た。これらについては、日本オースティン協会にて報告をおこなうとともに、発表後の意見交換を参考にしつつ、論文にまとめる作業を継続中である。また、「歴史小説」というジャンルを確立したとされるスコットの『ウェイヴァリー』(1814)に今一度立ちもどり、特に先行作品や同時代の同種の小説との比較や、同作品の序章と最終章にみられる語りの構造と語り手の特徴に注目しつつ、この特徴が現実の歴史的事件を題材とした作品の歴史表象にどのように関与し、歴史小説というジャンルの確立と、このジャンルによる、小説というジャンル全般をめぐるその後の展開への貢献の可能性を探る作業の一部とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ロマン主義時代の歴史小説と、特に同時代のナショナル・テイルとのかかわりについてより細かな再検討の必要性を感じ、それを試みたこと、および、国際スコット会議での研究発表の内容について、発表後の質疑応答やその後のやりとり等から新たな論の展開の示唆を得ることができたことから、その論点を追究しているため。
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Strategy for Future Research Activity |
ウォルター・スコットの歴史小説作品を主な対象とし、歴史叙述と小説との語りの方法の差異、また、そこにおける作者と読者との関係の構築という観点に特に注目しつつ、歴史を題材とすることが小説に招き入れた手法、およびその小説史における位置づけという論点の考察を核として文献・資料の読み込みを進め、学会発表とその後の意見交換をふまえた論文執筆を中心に研究を進める予定である。
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Research Products
(3 results)