2010 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス・ロマン主義文学作品の生成過程と正典化についての実証的研究
Project/Area Number |
22520270
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
藤巻 明 立教大学, 文学部, 教授 (30238604)
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Keywords | ロマン主義文学 / 作品生成過程 / 文学の正典化 / 新歴史主義批評 |
Research Abstract |
今年度は、研究実施計画の4点について、次のような結果を残した。 1.イギリス・ロマン主義時代の政治・社会の動き、一般大衆の動向などを理解するために、Bronk,Simpson,Goldbergなどによる、経済、社会、職業との関わりに重点を置いた最近の研究書を閲読し、文学生成に及ぼす影響源の広がりについて知見を深めた。 2.作家同士の交流について、Wordsworth,Coleridge,Lamb,De Quinceyの書簡と日記を幅広く読んだ他、Lambを軸とした関係の捉え直しを主張するFelicity Jamesの著を閲読し、友情による作家の共同体構築が作品生成に大きな影響を与えた点を理解した。 3.当時の出版業界と上記作家たちの関わりについては、Wordsworthがシントラ条約反対の小冊子を上梓する際De Quinceyを代理としてロンドンに派遣し、校正と出版の交渉に当たらせた過程で生じた、大物出版業者Daniel Stuartとの錯綜した関係に焦点を合わせ、ロマン主義文学者たちと当時の出版業界中枢との深い関わりを辿ることができた。 4.以上を踏まえて、文学作品が作家たちの置かれている歴史的社会的文脈の中から生成されてくるものであり、夾雑物を捨象したニュークリティズム的な純粋物ではないことを改めて理解し、言論活動や交友関係を含む作家の活動全体体の中から、作品が生成されてくる様を捉える重要性を認識した。 本年度の研究は、ロマン主義文学者たちと時代及び言論出版業界との関係をめぐる見取図の作成という基礎作業に時間を要し、まとめて今年度中に論文という形で成果を出すことはできなかった。論文、研究成果の発表は来年度以降に行なう予定である。
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