2011 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス・ロマン主義文学作品の生成過程と正典化についての実証的研究
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22520270
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
藤巻 明 立教大学, 文学部, 教授 (30238604)
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Keywords | ロマン主義文学 / 作品生成過程 / 文学の正典化 / 新歴史主義批判 |
Research Abstract |
3年の研究期間中2年目に当たる今年度は、3月に大英図書館への海外出張を行ない、研究実施計画の5点について、次のような結果を残した。 1.イギリス・ロマン主義時代の政治・社会の動き、海外進出の状況、出版界、世論、一般大衆の動向などを理解するために、特に今年度は詩人Coleridgeと:Lord Byron及びこの二人の作品を出版したJohn Murrayの関係についての文献を読み込んだ。 2.作家同士の交流が作品生成に及ぼした影響について、ColeridgeとByron(さらには両者とMurrayの)間で遣り取りされた往復書簡を精読し、作品成立への影響について考察した。 3.当時の定期刊行物及び出版業界と作家たちとの関わりについて、Coleridgeの代表作に対するByron,Hazlittなど他のロマン主義作家たちの雑誌・新聞での反応と論争について一次資料を丁寧に読み込んで、作家たちの相互関係を考察した。 4.当時の歴史的社会的条件の下、言論活動や交友関係を含む作家の活動全体の中から、作品が生成されてくる様相を、特にColeridgeの代表作の一つ Christabelに即して捉えた。 5.4に挙げたChristabelが、当時の歴史的社会的文脈から生成され、20年もの歳月を経て出版された後、当初の酷評から次第に評価を高めて正典化され、その過程で精査すればあり得ないと分かる伝説が付け加えられていった様子を、特に無数にある草稿と出版の際の複雑な事情に光を当てながら解明し、「一八一六年六月十八日のクリスタベルーバイロン、ハズリット、シェリー-」という論文にまとめた。これは、既にゲラが出ており、三月に『亡霊とイギリス文学』(国文社)に収められて出版される予定だったが、他の寄稿者の都合により刊行が次年度にずれ込んでしまった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
作品生成過程と正典化について前年度は、主に概観的な基礎研究を行なっていたが、今年はロマン主義を代表する詩人の一人Coleridgeの代表作であるChristabelという具体的な作品に焦点を合わせて実証的な研究を行ない、それを論文に仕上げることができた。ただし、この論文を収めた書籍が他執筆者、出版社の都合により年度内に刊行できなかったのは残念だった。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は本研究の締め括りの年として、今年は代表作の一つ Christabelに絞って具体的に考察したColeridgeの作品全体に渡る生成と正典化の過程に研究対象を広げて、2003-2004年度に行なった科研費研究「定期刊行物への寄稿によるイギリス・ロマン主義文学の自己形成と世論形成」の成果も全て含めるような形で書籍としてその成果を表わしたい。
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